世界的に広く知られた近代マーケティングの父…フィリップ・コトラー「マーケティング4.0~スマートフォン時代の究極法則~」の第1刷発行日は2017年8月30日。昨秋、広島に来られた際にも、本稿HP【vol.14:コトラー来広~マーケティング4P+2P~】で紹介させて頂いて注目コトラーの最新刊だけに私も早々に購入していたところ…去る11月1日、愛読紙である日経MJが年1回発表する「第35回サービス業総合調査」の今年のタイトルとして早速採用、コトラー氏が提唱する概念が現実化してきたと報じられました。
今月の経営のプチ勘所では、当該記事の裏付けとなるマーケティング概念の1.0~4.0に至る構造的変遷を簡単に整理するととものに、最新の4.0概念に基づく収益拡大手法について解説してみたいと思います。
1.マーケティング1.0:製品中心~作り手による生産・販売志向~
1908年にフォード社が世界初の大衆車「T型フォード」を世に出して以来、工業化時代のマス市場(需要>供給)における関心はより多くの購買者に買ってもらうことであり、規格化と規模拡大で生産コストを低減する《製品管理》を軸にマーケティングという概念は1950年代の米国で市民権を得たとされます(注)。謂わば、1社独占の“作れば売れる”時代の生産志向と、その後競合他社も出現して“(自社製品を)いかに沢山売るか”という販売志向を通し、「機能」的価値を訴求する“1対多数の取引”原理のもとに展開していました。そのためマーケティング1.0の標準モデルは、マーケティング・ミックスとして知られる「4P」(Product・Price・Place・Promotion)を中心とした戦術的性格のものでした。
(注)コトラー最初の大著「マーケティング・マネジメント」では、①その源流はピーター・ドラッカー曰く1650年頃江戸時代に三井家が最初に開いた百貨店にあること、②マーケティングという言葉が初めて使われたのは1905年ペンシルベニア大学の講座とされています。
2.マーケティング2.0:顧客中心~買い手である消費者志向~
1970年代、石油ショック等の不確実な時代に入り需給バランスの逆転(需要<供給)で「4P」だけでやっていけなくなると、マーケティングの重要性は一層高まり「STP」(Segmentation・Targeting・Positioning)を付加した戦略的次元へと進化しました。「機能」的な物質ニーズに加えて「感情」的価値(マインド・ハート)を追求する洗練された特定市場の消費者を、情報化社会の進展による《顧客管理》技術で差別化して“1対1の関係”を築くことで効果的な需要創出を図ろうと展開しました。
3.マーケティング3.0:人間中心~社会的責任を両立する価値志向~
グローバル化のティッピング・ポイント(転換点)とされる1989年…パソコンがビジネスの主流に入り込み、90年代初めにインターネットが誕生して以降…価値主導の段階に入ったとされています。現代我々は選択する製品・サービスに「機能」的・「感情」的充足だけでなく「精神」的価値も求めるようになってきました。スティーブン・コヴィー博士の言う全人的存在、即ち「肉体」「マインド」「ハート」「精神」の人間の基本的構成要素の全てに訴求して“魂の暗号を解く”努力が必要になってきた訳です。マーケティングはこれまでの「縦の関係」に加え、「横の関係」に支えられたクチコミ・SNSを含めた他人の意見を信頼する“多数対多数の協働”時代へ移り変わりつつあります。このため企業や商品の選考基準に環境や社会貢献等を含めた《ブランド管理》の要素が加わりました。マーケティング3.0の将来モデルは「3i」(Bband-identity・Brand-integrity・Brand-image)というコンセプトから成る完全な三角形を形成することにあるとしている。
4.マーケティング4.0:~3.0の自然な発展形としての自己実現志向~
コトラーの「マーケティング3.0~ソーシャル・メディア時代の新法則~」が出版されたのは2010年9月、最新刊マーケティング4.0はデジタル経済におけるカスタマー・ジャーニー(注)の質の変化に適応する必要があるため…3.0の自然な発展形として示したもの。本稿では第3部「デジタル経済におけるマーケティングの戦術的応用」から売上増大のためのオムニチャネル・マーケティングの実行策として、オン・オフ様々なチャネルを統合してシームレスで一貫性のある顧客経験を生み出す手法が紹介されています。
伝統的マーケティングでは「認知」~「行動」までのセールス・サイクルを扱うのに対し、デジタル・マーケティングでは「推奨」に進ませることを重視する。マーケティング4.0とは、企業と顧客のオンライン交流とオフライン交流を一体化させるマーケティング・アプローチであり、その手法として、①モバイル・アプリを使ってデジタルな顧客体験を高める、②ソーシャルCRMアプリを使って顧客をカンバセーションに参加させソリューションを提供する、③ゲーミフィケーションを使って望ましい顧客行動を促すことができるとしています。CS顧客満足理論の進化版としても注目すべきでしょう。
(注)製品やサービスを知った顧客が購入・推奨に至るまでの「5A」の道筋。認知→(Aware)→訴求(Appeal)→調査(Ask)→行動(Act)→推奨(Advocate)。