経営の勘所

サイト管理人の経営考房 代表 山根敏宏が、最近の動きの中で感じた経営に役立つプチ時事概説のページです。

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経営のプチ勘所

【経営のプチ勘所vol.61:「論語」を読むシリーズ~第12回:逆境下での経営】

【⑫第12回:逆境下での経営】

広島県庁リモート会議より

コロナ禍でZoom利用等からビジネススタイルも大きく変わりつつありますが、変化はリスクとチャンスの両面を持ち合わせています。現下の環境激変をきっかけに確り下地を固めて、来るべき飛躍を見据えた経営を目指しましょう。

■子曰く、歳寒くして、然る後に松柏の彫しぼむに後るるを知るなり。《泰伯篇》

‥(訳)冬の寒さが厳しくなったときに、はじめて松や柏がいつまでも凋しぼまないでいることが確認できるのである。

⇒目下、想定外のコロナ禍が続いて多くの企業が逆境に晒され、市場からの退出(倒産・廃業)を余儀なくされる会社も少なくありません。こうした自己責任に帰さない経営環境の悪化に対しても、一定の経営体力を保持していれば耐え抜いて生き残っていくことが可能な訳です。普段から逆境に備えた内部留保を蓄積し、財務上での自己資本を充実しておくこと(最低20%~理想50%超)が肝要です。

樹々の世界において常緑の松柏は、新緑や紅葉に彩られる広葉樹と比べて決して派手ではありませんが、寒い冬でも枯れることなく緑の葉をつけ積雪に耐えています。攻守のバランスの取れた経営を貫き、長きに亘る繁栄を目指して貰いたいものです。

■子曰く、人、遠き慮りなければ、必ず近く憂いあり。《衛霊公篇》

‥(訳)遠い先のことまで対策を立ててかからないと、必ず足もとから崩れてしまう。

⇒現代日本語「遠慮」の語源でありながら、全く違う意味合いを感じさせる至言です。これは遠望深慮と表現すればわかり易いと思いますが、目先の“短期”的な問題に捕らわれて右往左往するのではなく、もっと先を見越した“中長期”的な視点を持つことの大切さを訓えてくれます。

ソフトバンクの孫正義会長は永年こうした考え方を貫いてきた経営者として有名ですが、曰く「目の前の波の高さが数メートルに及ぶ大荒れの海でも、目線を水平線の先に置けば目標はブレずに安定している」として、次々と新事業を計画してM&Aにより企業成長を果たしてきた訳です。

経営の世界では、長期=戦略的な“改革”レベルの判断のもとに、短期=戦術的な“改善”レベルの実践活動を積み重ねていくPDCA活動が求められます。因みに、経営判断に際しては、著名な経営書『ビジョナリー・カンパニー』~時代を超える生存の法則(ジム・コリンズ著)~で「Orの抑圧」をはねのけ、「Andの才能」を活かす…という有名なフレーズがある通り、私自身の指導方針として、決して短期か長期かという二者選択の話ではなくて全体最適の視点を忘れず理想を掲げ統合経営を目指すべきとアドバイスさせて頂いております。

※なお、本稿「論語」シリーズを受けて、来月(7月)からは「経営名著」シリーズの復刻にて更に経営を掘り下げてお伝えしたいと考えております。

【経営のプチ勘所vol.60:「論語」を読むシリーズ~第11回:君子の道】

【⑪第11回:君子の道】

■子、子産を謂う、「君子の道四あり。その己を行なうや恭。その上に事うるや敬。その民を養うや恵。その民を使うや義。《公冶長篇》

‥(訳)孔子が子産を批評してこう語った。「あの方は、君子としての資格を四つも備えていた。第一に、態度が謙虚であった。第二に、君主に対しては敬意を忘れなかった。第三に、人民に対して恩恵を施した。第四に、人民を使役するのに節度を心得ていた」

⇒孔子の君子評たる恭・敬・恵・義、人を引き付ける魅力ある経営者として備えるべき資質と言えるでしょう。

■曾子、疾あり。孟敬子これを問う。曾子言いて曰く、「鳥のまさに死せんとするや、その鳴くこと哀し。人のまさに死せんとするや、言や善し。君子の道に貴ぶ所のものは三つ。容貌を動かしてはここに暴慢を遠ざく。顔色を正してはここに信に近づく。辞気を出だしてはここに啚倍ひばいを遠ざく。籩豆へんとうの事は則ち有司存せり」。《泰伯篇》

‥(訳)曾子は病が改まったとき、見舞いに来た孟敬子に言った。「鳥は死に際になると、ひときわ哀しい声で鳴く、人間は死んでいくとき嘘のない言葉を言い残す、と言われています。どうか私の話すことをしっかりと聞いてください。君子の守るべき礼には、大切なことが三つあります。第一は、立居振舞をきちんとすること。そうすれば粗暴さから免れることができます。第二に、表情を正しくすること。そうすれば信頼感を高めることができます。第三に、言葉遣いに気を付けること。そうすれば軽薄さから遠ざかることができます。祭祀の運営の如きは、係の役人に任せておけば宜しいでしょう」

⇒容貌・顔色・辞気に気を付けること、これが君子たる礼節の在り方と言われています。

■孔子曰く、君子に三戒あり。少き時は、血気未だ定まらず、これを戒むること色に在り。その壮なるに及んでは、血気方に剛なり、これを戒むること闘に在り。その老ゆるに及んでは、血気既に衰う、これを戒むること得に在り。《季氏篇》

‥(訳)君子は生涯に三つのことを警戒しなければならない。青年時代は血気が未だ定まらないので、色欲を警戒する。壮年期には血気が満ち溢れてくるので、闘争心を警戒する。老年期には血気が衰えてくるので、物欲を警戒する。

⇒君子も世俗に生きる人間、出家僧侶のように欲から完全に離れた存在ではないので、色・闘・物の3つの欲を自制して人格を高めていかなければならないとされます。

【経営のプチ勘所vol.59:「論語」を読むシリーズ~第10回:君子とは~】

【⑩第10回:君子とは】

■子曰く、君子は器ならず。《為政篇》

‥(訳)君子というのは、特定の用途にだけに役立つような人間であってはならない。

⇒上に立つ人間はゼネラリストであって、適材適所される側のスペシャリストではないとの観点です。今日、中途半端で深みのないゼネラリストにご批判もあろうかと思いますが、本来は視野が広くバランスの取れた全般経営者こそ組織を健全に動かせる素養を担うべき君子である筈です。

■子曰く、君子は世を没えて名の称せられざるを疾にくむ。《衛霊公篇》

‥(訳)君子というのは、一生の間に、何か一つぐらいは人から称賛されるような仕事をしたいと願っているものだ。

⇒人の一生において仕事は自分を高めた成果を測る生産的なモノサシであり、特に世界で唯一四千年の歴史を残す中国社会では名を遺すことの意味合いが大きい訳です。

■子夏曰く、君子に三変あり。これを望めば儼厳然たり。これに即けば温なり。その言を聴けば激し。《子帳篇》

‥(訳)子夏が言った。君子は三度姿を変える。遠くから見ると、近寄り難いような厳しさがある。近寄ってみると、意外に温かい。ところが、言葉を聞くと、すこぶる手厳しい。

⇒先に「徳」の要素として、論語の『知』『仁』『勇』に加え、孫子の兵法の『信』(心服)と『厳』(威厳)を加えた五つを指摘しました。ここでは君子に触れた姿の特徴が指し示されています。

■子曰く、君子は言を以って人を挙げず。人を以って言を廃せず。《衛霊公篇》

‥(訳)君子は、発言を聞いただけで相手を買いかぶるようなことはしない。また、相手の人を見て、折角の発言まで無視するようなこともしない。

⇒有言実行を肝としつつも、発言そのものに対しては先入観を持たず客観的な目線でもって公平に評価する姿勢を持つことが示されている。

■子曰く、君子は争う所なし。必ずや射か。揖譲ゆうじょうして升下しょうかし、而して飲ましむ。その争いや君子なり。《八脩篇》

‥(訳)君子は、人と争わないものだ。強いてあげれば弓の競技ということになろうか。ともに堂上にのぼって主催者に挨拶し、堂からおりると、互いに会釈して先を譲り合う。競技が終わると、勝者が敗者に罰杯を差し出す。これこそ君子の争いに相応しい。

⇒礼に始まり礼に終わる、武道の心得ある人には備わる気質であろうか。礼節を重んじる儒学思想の中で培われた道の世界観、小生も剣道二段にて競技はすれども、争いごとや喧嘩は大嫌いです。

■子曰く、富みと貴きとは、これ人の欲する所なり。その道を以ってせざれば、これを得るとも処らざるなり。貧しきと賤しきとは、これ人の悪む所なり。その道を以ってせざれば、これを得るとも去らざるなり。君子は仁を去りて、悪くにか名を成さん。君子は終食の間も仁に違うことなし。造次ぞうじにも必ずここに於いてし、顛沛てんぱいにも必ずここに於いてす。《里仁篇》

‥(訳)人間であるからには、誰でも富貴な生活を手に入れたいと思う。だが、真っ当な生き方をして手に入れたものでなければ、しがみつくべきではない。逆に貧賤な生活は、誰でも嫌うところである。だが、真っ当な生き方をしていても、そういう状態に陥った時は、無理に避けようとしてはならない。君子の目標とすべきは、仁である。仁を捨てて、どうして名誉を手にすることができようか。君子は片時も仁を離れてはならない。とっさの場合も仁、蹴躓いて倒れ掛かった場合にも仁、いついかなる場合も仁を忘れないことだ。

⇒富貴・貧賤という現象に一喜一憂することなく、真っ当な『仁』者たる生き方こそ有意義な人生ということを、自信をもって示してくれています。

【経営のプチ勘所vol.58:「論語」を読むシリーズ~第9回~君子と小人(その2)~】

【⑨第9回:君子と小人(その2)】

10名のCARP選手感染により今週末の阪神戦が延期(中止)となり、益々不安高まる広島市内を脱出してコロナ疎開中…八幡高原の山小屋ステイ5日目の朝です。西中国山地最奥ゆえに中々雨雲が抜けず、今朝も天気予報に反して雨が降り頻っております。

今日の記事は先週に続いて「君子と小人」、前稿で書き切れなかった観点を(その2)として補足したいと思います。なお、写真は山小屋「湖稜庵」の屋外に自前で造った五右衛門風呂、一昨日焚口のコンクリート工事をして乾いてきたみたいなので、雨が止んだら新緑の露天♨風呂を愉しみたいと思います。

■子曰く、君子は上達す。小人は下達す。《憲問篇》

‥(訳)君子は物事の本質を考える。小人は末節にとらわれる。

⇒前回に続いて、立派な人間たる君子と取るに足らぬ小人のレベルの違いが認められています。ダメ上司の枝葉末節にうんざりの部下、学卒離職者が多い最近の傾向を若者の我慢の無さに設えて、上司の至らなさを省みない会社が意外に多いのではないでしょうか?

■子曰く、君子はこれを己に求む。小人はこれを人に求む。《衛霊公篇》

‥(訳)責任を自覚しているのが君子、他人に転嫁するのが小人である。

⇒前言を受けて、言うに及ばずですね。次に過ちに関し、小人と君子の違いを示します。

■子夏曰く、小人の過つや、必ず文かざる。《子帳篇》

■子貢曰く、君子の過つや、日月の食の如し。過つや人皆これを見る。更むるや人皆これを仰ぐ。《子帳篇》

‥(訳)子夏が言った。小人は、失敗をしでかすと、必ず言い訳をする。子貢が言った。君子の犯す過ちは、日蝕や月蝕のようなものである。過ちを犯すと、全ての人が注目するし、それを改めると、全ての人が仰ぎ見る。

⇒小人の言い訳は論外ながら、多くの人から注目される立ち位置にある君子は過ちも目立つ訳で、影響力も大きいからこそ間違ったら決して誤魔化さずに正当に反省して直すべきと説かれています。

■孔子曰く、君子に三畏あり、天命を畏おそれ、大人だいじんを畏れ、聖人の言を畏る。小人は天命を知らずして畏れず、大人に狎れ、聖人の言を侮る。《季氏篇》

‥(訳)君子、は三つのものに敬虔な態度で接する。則ち、天命と大人と、そして聖人の教えである。ところが小人は、天命に対して敬虔さを欠いている。大人に対しても馴れ馴れしい態度をとる。聖人の教えは鼻であしらう。

⇒もはや君子と小人の差は埋まりようもない大差ですが、私は小人を自覚して向上に努める姿勢を貫き続ければ、やがて君子レベルに成長できるものと確信しています。

■子曰く、色はげしくして内やわらかなるは、これを小人に譬うれば、それなお穿愈せんゆの盗のごときか。《陽貨篇》

‥(訳)見かけは厳しくて頼もしそうだが、中味はぐにゃぐにゃで主体性に欠ける人間、それは小人を例にとると、最もみみっちいコソ泥のようなものだ。

⇒『仁』を中心とした徳世実現の足枷がこうした見掛け倒しの小人、下手に影響力を持っているだけに孔子は痛烈な言葉をもって批判しています。

■子曰く、郷原きょうげんは徳の賊なり。《陽貨篇》

‥(訳)えせ君子は、徳の泥棒である。

⇒この稿の最後に郷原について付け加えたいと思います。孔子は素晴らしい人間は中庸を貫けると言っていますが、一見中庸に見えてそうではない(見分けがつけ難い)のが郷原で、あっちに行ったりこっちに来たり自分の得になりそうな方にブレまくる人間のこと。私の関わった某政府系組織にも、保身のために他人を貶めて自分を売り込むお手柄頂戴主義の小役人が居て悩まされたものです。因みに、その中庸について語っているのが以下です。

■子曰く、中庸の徳たるや、それ至れるかな。民鮮すくなきこと久し。《雍也篇》

‥(訳)中庸の徳は、まことに素晴らしい。しかし、この美徳も、民間で廃れてしまってから、既に久しい。

⇒混迷の春秋戦国時代にあって、理想とする周王朝と比べて廃れたことを嘆く件です。

【経営のプチ勘所vol.57:「論語」を読むシリーズ~第8回:君子と小人(その1)】

【⑧第8回:君子と小人(その1)】

今週末の広島は、①昨日の梅雨入り、②今日からのコロナ緊急事態宣言施行と、想定外の暗いニュースに晒されています。こんなご時世だからこそ、 上に立つべきリーダーは 目先の利益(cf.小人)を超えた高邁な理想を追求する「君子」のあるべき姿を示して欲しいものです。

■子曰く、君子は義に喩り、小人は利に喩る。《里仁篇》

‥(訳)行動に際して、義を優先させるのが君子、利を優先させるのは小人である。

⇒小人とは君子の逆、取るに足らない人間のことを指す。「論語」から“義”を学んだ渋沢栄一は、経済の仕組みと組み合わせ“義理合一”を目指し、著書「論語と算盤」を著しました。また、東京養育院の設立や経済活動の第一線から退いた後も、生涯にわたって福祉を実践した渋沢翁は決して利益優先の小人ではなく、君子そのものであった。

■子曰く、君子は人の美を成し、人の悪を成さず。小人はこれに反す。《願淵篇》

‥(訳)君子は人の善行は援助するが、悪事には手を貸さない。小人は逆である。

⇒前記のことが、善悪との絡みから表わされている。私は経営理念について、①存在意義、②経営姿勢、③行動規範の3つが不可欠と説いていますが、②正しいことを正しく行うことの意義に通ずるところです。

■子曰く、君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず。《子路篇》

‥(訳)君子は、協調性に富んでいるが雷同はしない。小人は、雷同はするけれども協調性には欠けている。

⇒不和雷同として知られる有名なフレーズですが、悪事であっても自分の興味や儲け話などに乗せられて徒党を組んで動く小人の雷同から距離を置きたいものです。

■子曰く、君子は泰にして驕らず。小人は驕りて泰ならず。《子路篇》

‥(訳)君子は、自信を持ちながら、しかも謙虚に振る舞う。小人は、傲慢に振る舞いながら、そのくせ自信に欠けている。

⇒確固たる信念の有無が君子と小人を分かつことが示されています。子路篇では、社長と部下に擬えた次のような言葉があります。

■子曰く、君子は事つかえ易くして説よろこばしめ難し。これを説ばしむるに道を以ってせざれば、説ばざるなり。その人を使うに及びては、これを器にす。小人は事え難くして説ばしめ易し。これを説ばしむるに道を以ってせずと雖も、説ぶ。その人を使うに及びては、備わらんことを求む。《子路篇》

‥(訳)君子に仕えるのは易しいが、気に入って貰えるのは難しい。何故なら、仕える時にはうまく能力を引き出して貰えるが、きちんと道理に適ったことをしなければ気に入って貰えないからである。これに対し、小人に仕えるのは難しいが、気に入って貰えるのは易しい。何故なら、見境なく仕事を押し付けて責任ばかり追及してくるが、道理に外れたことをしても気に入って貰えるからである。

⇒経営者の皆さん如何でしょうか?ダメ社長にダメな社員、そんな荒んだ組織を反面教師として、道理則ち経営理念を大切にして素晴らしい会社を創りたいものですね。

【経営のプチ勘所vol.56:「論語」を読むシリーズ~第7回:君子と学】

【⑦第7回:君子と学】

今回から尊敬される経営者にはどんな態度が求められるのか?
古来、帝王学の中で「君子」として語られるフレーズの中から、先ず先週の“学”の観点から抽出してみました。

■子曰く、君子重からざれば則ち威あらず、学べば則ち固ならず。忠心を主とし、己に如かざる者を友とするなかれ。過ちては則ち改むるに憚ることなかれ。《学而篇》

‥(訳)君子というのは、態度が重厚でなかったら、威厳が備わってこない。学問をすれば、それだけ頑迷さを免れることができる。常に誠実であることを旨とする。友を選ぶときには、自分より優れた人物を選ぶ。過ちを犯したことに気付いたら、すぐに改める。

⇒君子(立派な人間)たる経営者の威厳のバックボーンとして、学問による柔軟さと誠実さの重要性が説かれています。第4回の「知」に係る原則(下問・我師)に加え、優れた友を選ぶ姿勢が必要としています。なお、仁者は人を選ばないとありますが、私の理解では自分を磨いて『仁』に到る過程で良い刺激を受けるための選別と考えます。

■孔子曰く、益者三友、損者三友。直を友とし、諒を友とし、多聞を友とするは益なり。便辟を友とし、善柔を友とし、便倭を友とするは損なり。《季氏篇》

‥(訳)付き合って為になる友人が三種類、為にならない友人が三種類いる。為になるのは、剛直な人、誠実な人、博識な人である。逆に、易きにつきたがる人、人当たりの良い人、口先だけの人、これは付き合っても為にならない。

⇒上記の友について、益・損それぞれ対極の特徴を示して、為になる交友関係のポイントが示されています。

■子曰く、君子は食飽くことを求むるなく、居安きを求むるなく、事に敏にして言に慎み、有道に就きて正す。学を好むと謂うべきのみ。《学而篇》

‥(訳)君子は、食べ物や住まいについて、ことさら贅沢を願わず、行動は機敏に、発言は慎重を旨とする。そして、立派な人物を見習って我が身を正すのである。こうあってこそ、学問を好む人間と言えよう。

⇒君子の食・住に対する志向、軽口否定の有言実行、前記同様に謙虚に人から学ぶ姿勢の大切さが説かれています(以下三項も同様の内容を指摘)。

■子貢、君子を問う。子曰く、「まずその言を行いて、而る後にこれに従う」。《為政篇》

‥(訳)子貢が君子の条件について尋ねた。孔子が答えるには、「発言する前に、先ず実行がなければならない。言葉は後からついていくものだ」。

■子曰く、君子は言に訥とつにして、行いに敏ならんことを欲す。《里人篇》

‥(訳)君子は能弁である必要はない。それよりも機敏な行動を心掛けたい。

■子曰く、君子はその言のその行ないに過ぐるを恥ず。《憲問篇》

‥(訳)君子は、言葉だけが先走って行動が伴わないことを恥とする。

【経営のプチ勘所vol.55:「論語」を読むシリーズ~第6回:学びについて~】

【⑥第6回:学びについて】

今週は「学び」の概論についてまとめてみました。コロナ禍のゴールデンウィーク、ステイホームの要請下で天気も不安定なので…日頃読めない分厚い本でも読んで過ごしませんか(写真:LIFE SHIFT等は以前読んだ本ですが、生き方の道標として良い本ですよ)。

■子曰く、性、相近し、習、相遠し。《陽貨篇》

‥(訳)生まれながらの素質に、それほど違いがある訳ではない。その後の習慣の違いによって、大きな差がついていくのである。

⇒孔子が生涯学習の祖であることは初稿に採り上げました。当時の学びの対象は歴史とされますが、そうした古の叡知を学べるのが書物です。私たちは義務教育以降、社会人になるまで目的や対象も曖昧なままプログラムとして学びを半強制的に強いられるため、学卒後に学習を続ける方は少ないのが実態でしょう。私は大学ゼミの恩師、三戸公先生に出会って学問の意味を教わりました。就職して多忙にかまけ、折角基礎を教わった経営学書から遠ざかっていましたが脱サラを機会にリセット、中小企業診断士の稼業でより良い支援ができるよう勉強を続けて来ました。今日振り返るに、この無形の積み重ねが自信にも繋がっていることを実感します。これからも孔子に習って、生涯にわたって勉学向上に努めて自分を向上させていきたいものです。以下では、「論語」の学びに係るフレーズを幾つか抜粋して紹介します。

■子曰く、学びて思わざれば則ちくらし、思いて学ばざれば則ち殆あやうし。《為政篇》

‥(訳)読書にばかり耽って思索を怠ると、折角の知識が身につかない。逆に、思索にばかり耽って読書を怠ると、独断に陥ってしまう。

⇒三戸先生から経営学は人生の学ということを教わりました。また、読書で得た知識を実践して活かしてこそ価値があると、私の中小企業診断士としての而立を喜んで頂きました。三戸先生、孔子と人生の羅針盤たる師があることに感謝しています。

■子曰く、黙してこれを識しるし、学びて厭わず、人を諧おしえて倦まず。《述而篇》

‥(訳)黙々として思索を重ねる。学問に励んで飽きることがない。人に教えて疲れることを知らない。これ位のことなら、私のような人間にも無理なくできる。

⇒孔子の生き方が謙虚に語られていますが、何より学問を希求することが“楽しい”という境地(知<好<楽)が素直に表現されていて素晴らしい。

■子、子夏に謂いて曰く、「女なんじ、君子の儒となれ、小人の儒となるなかれ」。《雍也篇》

‥(訳)孔子が子夏を戒めて、こう語った。「学ぶことの目的は、自分を向上させることにある。世間の評判ばかり気にするような人間にはなるな」

⇒学校教育や出世の階段で、とかく学問は競争選別の手段に成り下がってしまいがちですが、本当の目的についての孔子のストレートな指摘すっきりします。

■子曰く、古の学ぶ者は己のためにし、今の学ぶ者は人のためにす。《憲問篇》

‥(訳)昔の人間は、自分を向上させるために学問をした。今の人間は、名前を売るために学問をする。

⇒私からすれば何れも昔ですが、学問に取り組む真の意義が語られています。

■孔子曰く、生まれながらにしてこれを知る者は上なり。学んでこれを知る者は次なり。困くるしみてこれを学ぶはまたその次なり。困しみて学ばざるは、民にしてこれを下となす。《季氏篇》

‥(訳)生まれながら知能に恵まれている者は最高である。学んで身につけた者はその次である。必要に迫られて学ぶ者は更にその次である。必要に迫られながら学ぼうとしない者は最低である。

⇒天賦の才のない私は“次”を目指して学習に励んでいます。経営者とお話する中で、“その次”の学びを促すのが我が務めと考えて指導させて頂いている手前、自ずと“下”の方とはお付き合いがありません。

■子曰く、学は及ばざるが如くするも、なおこれを失わんことを恐る。《泰伯篇》

‥(訳)学問というのは、必死になって追いかけていくものだ。それでもなお目標を見失ってしまう恐れがある。

⇒学求姿勢についての語りですが、孔子のように“楽しい”境地ではないにせよ、自分を高める弛まぬ努力の必要性が指摘されています。

■子曰く、三年学びて、穀に至らざるは、得易からず。《泰伯篇》

‥(訳)三年もみっちり勉強すれば、誰でも仕官の口ぐらいは見つけることができる。

⇒私の場合も、大学ゼミに3年在籍、中小企業診断士資格取得に2年、凡人でもみっちり勉強を続ければそれなりの成果が得られることを実感します。長い人生の中の僅か3年、勉強するか!しないか?皆さんはどうお考えでしょう。

【経営のプチ勘所vol.54:「論語」を読むシリーズ~第5回:仁者とは~】

【⑤第5回:仁者とは】

中小企業診断協会より永年貢献表彰(2018年5月)

人を立て人を達す:子貢曰く、「如し博く民に施して、能く衆を済うあらば、何如。仁と謂うべきか」。子曰く、「何ぞ仁を事とせん。必ずや聖か。尭舜もそれなおこれを病めり。それ仁者は己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す。能く近く譬えを取る、仁の方みちと謂うべきのみ」。《雍也篇》

‥(訳)子貢が尋ねた。「人民に遍く恩恵を施して民衆の安定を図る。如何でしょう、これなら仁者と言えるのではありませんか」孔子が答えるには、「そこまで行けば、仁者どころか、聖人である。尭舜のような聖天子でも、それができなくて思い悩んだのだ。仁はもっと身近にある。自分が立ちたいと思ったら、先ず人を立たせてやる。自分が手に入れたいと思ったら、先ず人に得させてやる。このように、身近なところから始めるのが、仁者のやり方なのだ」。

⇒自分本位に陥りがちな人間への戒めでもあり、素晴らしい経営者を目指す指針として自覚すべき行動原理だと考えます。斯く由私も、人として未熟な自分を戒める意味でも、出世競争の組織を脱して以降今日まで、中小企業診断士の教え子達に役員登用の道を譲り、自分は一会員として振る舞い続けることで自己抑制を貫いて仁者を目指しております。

仁の道:子夏曰く、博く学びて篤く志し、切に問いて近く思う。仁その中に在り。《子帳篇》

‥(訳)子夏が言った。幅広く学んでいよいよ志を固くし、疑問はあくまでも究明し、身近な体験の上に立って考えを深めていく。仁は、そういう中から芽生えてくるのだ。

⇒生涯教育の祖、孔子が説いた仁者実践の道程として自覚すべき在り方です。

:子貢問いて曰く、「一言にして以って終身これを行うべきものありや」。子曰く、「それ恕か。己の欲せざる所は、人に施すなかれ」。《衛霊公篇》

‥(訳)子貢が尋ねた。「何か一言で生涯の信条としたいような言葉がありましょうか」孔子が答えるには、「恕であろうか。つまり、自分がして欲しくないと思っていることは、人にもしないことだよ」。

⇒最高道徳たる『仁』の高みに到達するのはやはり大変な修養が必要。そこで誰でも出来るもっと簡単な心掛けとなるのが『恕』という姿勢なのです。“自分が嫌なことは他人にしない”という自分基準で実践できるのが『恕』、これに対し『仁』は他人基準則ち相手への思いやりと受容あっての徳です。私は小さい頃、身勝手な振舞いをする度に祖母から口酸っぱく諭されてきたのがこのことでした。恐らく多くの皆さんの家庭でも年寄りから子供への躾として聞いたフレーズではないでしょうか。

【経営のプチ勘所vol.53:「論語」を読むシリーズ~第4回:知について(補講)~】

【④第4回:知について(補講)】

立教大学ゼミの恩師「三戸 公先生」の米寿記念講演会(2015年6月)

前回に続いて「徳」の三大要素の『知』について、直接的に徳としての位置付けを離れた言行も含めて『知』という言葉がどう扱われているかについても抜粋してみました。

■子曰く、由、女なんじにこれを知るを教えんか。これを知るをこれを知るとなし、知らざるを知らずとなせ。これ知るなり。《為政篇》

‥(訳)これ子路よ、そなたに「知る」とはどういうことか教えてあげよう。それは他でもない、知っていることは知っている、知らないことは知らないと、その限界をはっきり認識すること、それが「知る」ということなのだ。

⇒兎角知らないことも知ったかぶりをしてしまいがちですが、孔子は『知』に対する素直なスタンスが人として向上する礎となることを示しています。これに関連して、以下の名言(諺)があります。

■子貢問いて曰く、「孔文子は何を以ってこれを文と謂うか」。子曰く、「敏にして学を好み、下問を恥じず。ここを以ってこれを文と謂うなり」。《公冶長篇》

‥(訳)子貢が孔子に尋ねた。「孔文子は、どうして“文”という立派な諡おくりなをもらったのでしょうか」孔子が答えるには、「彼は元々頭が切れる上に、好学心に厚く、敢えて部下に教えを請うことも意に介しなかった。そういう人物であったので、立派な諡を貰うことができたのだ」。

⇒敢えて下問を恥じず…で知られる諺です。立派な人間は知らないことがあると、たとえ地位や年齢が下であろうと聞くことを恥じとしないのです。我以外皆我師は小説「宮本武蔵」を著した吉川英治の有名な言葉ですが、これに通ずる至言として座右の銘にされておられる経営者の方も少なくありません。

■子曰く、三人行けば、必ず我が師あり。その善なる者を択びてこれに従い、その不善なる者にしてこれを改む。《述而篇》

‥(訳)三人で道を歩いているとする。他の二人からは、必ず教えられることがある筈だ。いい点あればそれを見習えばいいし、ダメな点があれば自分を反省する材料にすればよい。

⇒上述の皆師についての孔子の見解です。教わるべきことは必ずしも良いことばかりではなく、反面教師とすれば際限なく学ぶ機会は拡がるもの。私は若い頃、戦時下で学ぶ機会を得ず育った凡庸無知な父親の一面を見下し、素直に言うことを聞かない反抗期を長く過ごしました。もっと早くに自分を修練して、学びの寛容さに気付ければ良い関係が築けたのにと残念に思うこと頻りです。

■子曰く、蓋し知らずしてこれを作る者あらん。我はこれなきなり。多く聞きてその善なる者を択びてこれに従い、多く見てこれを識す。知の次ぎなり。《述而篇》

‥(訳)世の中には、十分な知識もなく、直観だけで素晴らしい見解を打ち出す者もいるであろう。だが、私の方法は違う。私は、様々な意見に耳を傾け、その中から、これぞというものを選んで採用し、常に見聞を広げてそれを記憶に留めるのである。これは最善の方法ではないにしても、次善の策とは言えるのではないか。

⇒決して天才を自認していない孔子、その偉大なる凡人を形づくった次善の勉強方法。英才教育を受け東大・京大卒といったパワーエリートではない多くの皆さま、田舎者の凡人たる私も一押しの学びスタイル、孔子流非凡な『知』の修養法を会得してみませんか。

【経営のプチ勘所vol.52:「論語」を読むシリーズ~第3回:知と仁について(補講)】

【③第3回:知と仁について(補講)】

芸北聖湖畔(樽床ダム)の三才「天恩・地恩・人恩」記念碑

前稿の「徳」について、孔子は沢山の論点から繰り返し述べています。少し難しいので、今週と来週は少し補っておきたいと思います。

■知を問う。子曰く、「民の義を務め、鬼神を敬してこれを遠ざく。知と謂うべし」。仁を問う。曰く、「仁者は難かたきを先にして獲ることを後にす。仁と謂うべし」。《雍也篇》

‥(訳)弟子が「知」について尋ねた。孔子が答えるには、「人間としての義務を果たし、鬼神のようなものからは敬して遠ざかる。こういう生き方ができてこそ、知者と言えるのだ」。更に「仁」について尋ねると、孔子はこう答えた。「率先して困難な問題に取り組み、報酬は度外視する。こういう生き方ができてこそ、仁者と言えよう」。

⇒『仁』は孔子が最高道徳と位置づける規範で、一言で表現するなら“物事を健やかに育むこと”とされる。人として当然の義務を果す『知』を超えた高い領域にある『仁』を希求すること、これは私にとって強く意識する行動基準であり、実際に易きに就かず難事に取組み乗り越えて成長の糧にすることを心掛けて来ました。また、ご依頼が有れば極力応えること、その際金銭報酬の多寡を判断基準としたことがなく、財政的に苦しい方には行政の無料相談で対応することも多々あります。なお、知と仁について以下の表現もみられます。

■子曰く、仁に里るを美となす。択びて仁に処らずんば、焉んぞ知なるを得ん。《里人篇》

‥(訳)仁に基づいて行動するのは美しい。だから、そういう行動を選択しない人間は、とうてい知者とは言えないのである。

⇒仁者としての行動の前提条件として、知者としての素養が身についていることが不可欠となります。その『知』について自覚を促すフレーズが次の通り。

■子曰く、人の己を知らざるを患えず、人を知らざるを患う。《学而篇》

‥(訳)人から認めてもらえないと嘆く必要はない。むしろ、他人の真価に気付かないでいる自分の方こそ責めるべきだ。

⇒自分についての客観的評価をさて置いて愚痴ることに何の進化もありません。自分の不足や課題を見出し自覚して前向きな行動に繋げていくことこそ、知者のあるべき姿ではないでしょうか。

【経営のプチ勘所vol.51:「論語」を読むシリーズ~第2回:人として大切な徳~】

シリーズ3稿目(第2回)は「徳」について。私自身またセミナーや経営相談を行う際の指針としてお話しすることが多い、とても大切な考え方です。なお、写真は鳥取県三朝温泉に程近い三徳山の有名な投入堂です。危険な絶壁にありますので、登山の心得をもって訪れてみてください。

知・仁曰く、知者は惑まどわず、仁者は憂うれえず、勇者は懼おそれず。《泰伯篇》

‥(訳)知者は迷わない。仁者は思い悩まない。勇者は恐れることを知らない。

⇒人としてこの世に生まれ磨くべき尊い資質である「徳」、孔子の論語では『知』『仁』『勇』の三つ、更に孫子の兵法では『信』(心服)と『厳』(威厳)を加えた五つで表している。

私は経営者の持つべき資質として、①『知』:情報力・先見力、②『仁』:判断力・決断力、③『勇』実行力・体力の6つのパワーと関連付けて体得頂くよう指摘させて頂いております。経営戦略の策定においては、理念の元にSWOT分析⇒コンセプト⇒成長戦略⇒事業戦略(MK営業・財務会計・人事労務・製造・研究開発等)の展開で計画策定(Plan)を行い、実行(Do)、統制(Check)、改善(Action)のPDCAサイクルを回して業績アップを目指していくことが基本です。渋沢栄一が論語をベースとした日本的経営を樹立し、後の昭和名経営者たちにも多大な影響を与えた訳ですが、私の驚きは2,500年前の孔子の考え方が現代経営戦略に通ずる普遍性を有することです。

水と山・動と静:子曰く、知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。知者は動き、仁者は静かなり。知者は楽しみ、仁者は寿いのちながし。《雍也篇》

‥(訳)知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ、と言われる。全くその通りであって、知者の方は活発に動き回り、仁者の方はどっしりと構えて動かない。その結果、知者は人生を楽しみ、仁者は長寿に恵まれるのだ。

⇒『知』と『仁』を体得した人間の行動特性が判り易く示されています。それに『勇』を加えた「徳」を身につけ、バランスのとれた人格を磨く必要がある訳ですが、私は心から自然を愛する姿と人生が一体という考えに共鳴します。よく忙しい人は山へ行け、イライラしている人は海に行けと言いますが、静かな深山に入ると心穏やかさが取り戻され、広漠たる海を眺めていると大洋感情が味わえるものです。私事ながら…趣味は登山にカヌー、天命を意識した五十歳に芸北研修所「湖稜庵」を西中国山地の聖湖畔に開設し、会員企業様には活用して頂く拠点としております。

【経営のプチ勘所vol.50:「論語」を読むシリーズ~第1回:人生の楽しみ~】

【①第1回:人生の楽しみ】

手首・足首の骨折も未だ癒えず、先週は大腸ポリープの切除…未だ組織検査の結果が出ていない状況ですが、愛好する山登りを兼ねて九度山から高野山上:壇上伽藍~奥之院を歩いて訪ね、四国八十八ヶ所結願後の高野山満願成就の御朱印を頂いて来ました(R3.3.26~27)。

シリーズ第1回目は、仕事も趣味も楽しみという私の境地について認めてみました。

知<好<楽:子曰く、これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。《雍也篇》

‥(訳)理解することは、愛好することの深さに及ばない。愛好することは、楽しむ境地の深さに及ばない。

⇒これは私が最も好きなフレーズ。“知”とは後述予定の徳の第1原理、学びの基礎を成すもので、前稿『志学』に乗り遅れた学生時代、脱サラを決意して三十歳前後に毎日5時起き通算約2千時間の自己啓発をもって取得した中小企業診断士資格を全うし得た要素です。正直言って、それまでの人生において勉強は“やらされ感”の苦痛と同居していましたが、この時は不思議と勉強が“好”きになり、問題集で経営改善案を検討する時には“楽”しいとさえ思えたのです。以来、仕事(業)でも趣味(遊)でもこの境地を追求することが私の人生観の基本となっています。

楽しみて以って憂いを忘る:葉公、孔子を子路に問う。子路対こたえず。子曰く、「女なんじ、なんぞ曰ざる、その人となりや、憤りを発して食を忘れ、楽しみ以って憂いを忘れ、老いのまさに至らんとするを知らざるのみ、と」。《述而篇》

‥(訳)葉公が子路に向かって、「孔子とはどんな人物ですか」と尋ねた。子路は答えることができなかった。後でそれを聞いて孔子が語るには、「どうして言ってくれなかったのだ。気持ちが高ぶってくると、食事のことも忘れてしまう、楽しみに熱中していると、心配事も吹っ飛んでしまう、そして老い先の短いことにも気付かないでいる、そんな男だと」。

⇒孔子の人となりを表すものですが、好奇心旺盛な極めて人間的な人柄、前向きかつ直向きなプラス思考があの時代に73歳という長寿を全うした秘訣だと思います。周りはある意味大変かも知れませんが、私はこうした若々しい感覚を忘れずに生きたいと願います。

【経営のプチ勘所vol.49:「論語」を読むシリーズ~Prologue~】

2018年秋以降、代表:山根敏宏の度重なる右手足骨折とその後の手術により、【経営の勘所】を暫くお休みさせて頂いておりました。去る今年2月に抜釘手術を終え、漸く体調も回復途上にあることから、約2年振りに記事投稿を復活したいと思います。今後とも引き続き宜しくお願い申し上げます。

【Prologue:有名なフレーズから】

2021年のNHK大河ドラマ「晴天を衝く」の放送が始まり、主人公の渋沢栄一への関心の高まりとともに著書「論語と算盤」をテーマとした勉強会も盛んに開催されています。

明治日本資本主義の父とされる栄一激動の人生はドラマに譲るとして、世界的経営学の神様P.F.ドラッカーが研究対象とした渋沢翁の哲学の背景にある孔子の言行録「論語」とはどんなものなのか?…今から2,500年前の春秋時代中国に生まれた儒教思想は、その後わが国を含む東アジア圏に広く伝播、栄一が生まれた江戸時代には藩校・寺小屋教育の基礎として日本人にとっての当たり前則ちアイデンティティの一つの源流「論語」哲学について、毎週末に小生の独断(と偏見?)のもとに幾つかのテーマ毎にご紹介しようと思います。

(注)本稿の構成:■論語原文、‥(訳)口語訳(※訳文は守屋敦解説より引用)
⇒小生感想等の追加コメントの順で概説します。

先ずは皆んなが知っている「論語」の有名なフレーズから。

温故知新:子曰く、故ふるきを温たずねて新しきを知れば、以って師たるべし。《為政篇》

‥(訳)過去の歴史を勉強することによって、現代に対する洞察を深めていく。こういう人物こそ指導者として相応しい。

⇒学校で勉強の意味として先生に伝えられ、習字で書かされ、その割には出典・意味を知らないまま座右の銘としている方も少なくないのでは?

過ぎたるは、なお及ばざるが如し:子貢問う、「師と商と孰いずれか賢まされる」。子曰く、「師や過ぎたり。商や及ばず」。曰く、「然らば則ち師愈まされるか」。子曰く、「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」。《先進篇》

‥(訳)「子帳と子夏(弟子)とでは、どちらが優れているでしょうか」子貢に尋ねられて、孔子はこう答えた。「子帳は行き過ぎている。子夏は不足している」「では、子帳の方が優れているのですね」「いや、そうではない。行き過ぎも不足も似たようなものだ」

⇒超有名フレーズですね。過不足という言葉をよく使いますが、ここに機縁してバランス感覚の大切さという処世の勘所を訓えてくれたのも孔子※です。

※孔子(紀元前551~479年:73歳没)の本名は丘、字は仲尼。論語は72人の弟子達(Top10傑:約3千人)がまとめた孔子の問答集なので、“子曰く”とは、“子”孔子先生が“曰く”仰ったとなります。

志学・而立・不惑・天命・耳順:子曰く、吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順したがう。七十にして心の欲する所に従いて、矩のりを跨えず。《為政篇》

‥(訳)私は十五歳のとき、学問によって身を立てようと決意した。三十歳で自立の基礎を固めることができた。四十歳になって自分の進む方向に確信が持てるようになった。五十歳で、天命を自覚するに至った。六十歳になって、人の意見に素直に耳を傾けられるようになった。そして、七十歳になると、欲望のままに振る舞っても、ハメを外すようなことは無くなった。

⇒私が孔子を尊敬する理由は、孔子が自身の人生を振り返って素直に一歩ずつ成長する意味を教えてくれる偉大なる凡人、則ち生涯学習の祖だからです。私の場合、田舎育ちゆえに勉強せずスポーツばかりに明け暮れ二浪して大学に入るまでは『志学』は二十前と遅れ、三十半ばで入行した銀行を辞めて脱サラ、四十過ぎて事業は軌道に乗るもサラリーマンとは違って毎年仕事が来るだろうかと思い悩むことが続いたのを振り返ると『而立』『不惑』はいつ達せられたのやら?。五十の天命を強く意識して形から入って研修所・HPを開設、遊業両立※の人生観を定めて還暦六十を前に『耳順』準備に入っております。

※山根敏宏の日本百名山「遊業両立の百名山紀行」サブHP:遊(趣味アウトドア)業(経営コンサルタント)

朋あり遠方より来たる、楽しからずや:子曰く、学びて時にこれを習う、また説よろこばしからずや。朋あり遠方より来たる、また楽しからずや。人知らずして慍うらみず、また君子ならずや。《学而篇》

‥(訳)習ったことを、折に触れておさらいし、確りと身につけていく。何と喜ばしいことではないか。志を同じくする友が遠路も厭わず訪ねてくる。何と楽しいことではないか。人から認められなくても、そんなことは少しも苦にしない。これこそ本当の君子ではないか。

⇒学習の面白さ、朋友の楽しさ、立派な人間(君子)の在り方について語った名言です。学びの意味を理解せず、友達甲斐の曖昧さに悩み、他己評価を気にする‥昔の自分の至らなさを諭してくれた名文です。「論語」全般を貫くテーマでもあり、次稿以降個々にテーマを設定してコメントしてみたいと思います。

【経営のプチ勘所vol.48:老舗家具メーカー 大逆転の舞台裏~NHK番組に登場した支援先企業の知られざる復活劇~】

平成最後の年となる2019年の年頭にあたる第1回目の勘所は、一昨日夜1月11日にNHK中国地方向け番組に紹介された『ラウンドちゅうごく』を採り上げます。この番組は為末大がキャスターを務めて毎週金曜夜に放送される経済番組ですが、今回のテーマは「老舗家具メーカー 大逆転の舞台裏」、冒頭のコメント「今日はこの会社の成功と失敗の舞台裏から中国地方のものづくり企業復活のヒントを探る」で放送が始まりました(※以下、NHK公表のHP掲載記事)。

~為になるテレビ~「老舗家具メーカー 大逆転の舞台裏」

広島の家具メーカーが作った椅子が、世界の注目を集めている。人気の理由は座り心地の良さ。一時は倒産の危機にあったこの会社を救った、大ヒット商品誕生の裏側を伝える。

米国のIT企業アップルの新本社ビルに、日本製の椅子が数千脚導入された。椅子の名は“HIROSHIMA”。美しいフォルムと座り心地の良さが、世界の注目を集めている椅子だ。手がけたのは、木工のまち広島・廿日市で生まれた老舗家具メーカー。実はこの会社、バブル崩壊で一時は倒産危機に陥っていたが、この椅子の誕生で一転黒字化。大逆転劇の裏には、ものづくりのプライドと、時代の波をつかむ「あるアイデア」があった。

 番組に登場した家具メーカーは廿日市で創業以来90年を誇る地場名門企業の㈱マルニ木工(現在は広島市佐伯区湯来町)。実はこの会社とは不思議なご縁があって、私が初めて訪問したのは今から四半世紀前、まだ銀行員時代(㈶ひろぎん経済研究所:研究員)に産業調査を担当していた頃のこと。目的はバブル崩壊で潮目が大きく変わった地場産業「木製家具業界」を分析するためでした。ピーク時の売上270億円は全国同業トップクラスを誇るだけあって、当時の経営陣から感じられる危機意識は乏しく、経費節減等の“改善策”を進めれば再び業績回復が期待できるという見立てだった…やに記憶しています。

 ところが、その後当社は右肩下がり一直線の減収軌道を辿ることとなり、番組タイトルとなった倒産の危機に直面、2001年に呼び戻された現:山中 武社長のもと“大改革”に着手。地元出資の「せとみらい再生ファンド」による再生支援(2005年)を受け、現廿日市市役所周辺の広大な本社社有地を売却して3工場を現湯来町へ集約化(2009年)するなどの大胆なリストラ策を断行。その頃、周囲の反対を押して商品化したのが今の復活劇の起点となった新商品「HIROSHIMA」シリーズの椅子でした。製造当初は月産数台だったこの椅子ですが、2017年には米アップル新社屋「アップルパーク」に数千脚を納入するなど、現在では大ヒット商品として月産数百脚を生産するまでに至ったのです。

 さて、小生2度目の関与は2012年から翌年にかけてのこと。当時未だに毎期赤字が継続してファンドによる再生支援が終了、メインバンクの金融支援も揺らいでいた当時、顧問を務めさせて頂いている広島県信用組合(経営支援部)から肩代り融資を検討するための“目利き”を依頼されてのことでした。本事案を相談された時は、若い時分の経緯から半分興味本位という感覚の中、湯来工場へ初めての視察に行きました。事前に入手した財務諸表では、全盛時の売上の10分の1、10数年の赤字継続と“良いとこ無し”、しかも1ヶ所に集約後も尚リストラ断行から社員数が大幅削減となった工場内はガランと人影疎ら、且つ高齢社員が目立ちお世辞にも活気があるとは思えない様子でした。

 そうした中、対応役の経理部長にお願いして、予定になかった新社長との面談を希望して状況は一変しました。老舗企業6代目の“ボンボン”育ちかと思いきや、若干41歳の現社長は若く活力に溢れ謙虚さを兼ね備えた好青年、何よりも共通土俵の銀行出身ならではの聡明さが感じられました。本当は融資先として妥当か否かの事前調査という役割で訪問したにも係わらず(ある意味先方の誤解もあって…)、その場ですっかり意気投合して次の訪問約束へと話は発展。次回からは若社長が各部署の将来幹部候補と考える10数名の若者を参加させての「10年計画作業部会」を支援サポートすることになりました。その間に“工芸の工業化”を標榜するマルニ木工の強みの数々である職人クラスの熟練工が残存し、HIROSHIMA椅子という新商品を開発(東京スカイツリーのソラマチへの納入実績等)を確認し、県信組による暫定肩代り融資実行(計画策定後に短期資金の長期組替予定)という資金面での段取りを確保して協議を進めていきました。

 翌2013年4月に集約した10年計画には8つの事業コンセプトが抽出され、①小売参入(広島LECT・東京に提案店舗)、②輸出販路拡大(世界最大の家具展ミラノサローネ表彰・今般のアップルタウン拡販等)など“世界の定番を目指す”との方針に則って短中期的に実現した事業は元より、創業100周年には⑧湯来工場の聖地化(世界の木工を志す人が集う場所にする)という夢のある長期ビジョンを設定しました。因みに、当社の損益は2013年度に久々の黒字決算を計上し、現在に至るまで順調にV字回復軌道を辿っています。

 我々診断士は“黒子役”で守秘義務遵守の観点からも、元来、表舞台に出ることは稀です。増してや業績不振の会社の場合、会社自体の対外的な信用が左右されるため絶対秘密厳守は言うまでもありません。今回は開明的な社長の下、過去の失敗に蓋をすることなく苦闘の様子と成功に至るまでの軌跡を隠さず開示した番組でした。

 厳しい企業の再生をお手伝いするケースでの事後の現実、それは今回紹介された㈱マルニ木工のような大逆転は全てではない、むしろ決して多くないということです。しかしながら、成功への軌道修正には幾つかのエッセンスがあります。思考の柔軟性(プラス志向の考え方)、大胆な改革(改善を超えた勇気ある決断)、計画の実行(計画棚上げが多い現実)などが本ケースの背景にはあります。本稿をご覧になられた方々の中には、日々不安に苛まれながら一筋の光明を見出そうと奮闘中の経営者もおられることでしょう。一朝一夕の逆転劇というものは有り得ません。でも、未来を信じ諦めずに頑張ることの大切さを学び取って頂ければ幸いです。

【経営のプチ勘所vol.47:2018年広島市広域商圏調査~人気分散 競争激しく:支持率7地区でアップ~】

 12月10日(月)は多くの企業・役所等での冬のボーナス支給日。20年前に脱サラした身の小生には縁遠く若干羨ましくも感じるこの日ですが、世の中はX`mas・お正月と消費が盛り上がる歳末セール時、小売店側ではいかに販売を伸ばすか…水面下での諸々の工夫を行っておられる商売人の皆様も多いことでしょう。
 こうした中、先月11月27日「2018年広島市広域商圏調査」の結果が報じられました。①支持率トップは昨年に続いて『府中町周辺』(16.4%)、②第2位は『紙屋町周辺』(16.0%)、③第3位『八丁堀周辺』(15.4%)とベスト3の顔ぶれは前年と同じでした。しかしながら、何れも大規模改装が奏功したトップ集団で、①イオンモール広島府中の増床(一昨年11月)、②そごう広島店本館化粧品売場・バスマチストアの開店(今年4月)、③パルコ広島店(今年春・秋に40%の大改装)ともに、大きなお金を掛けながらいかにお客様を惹き付けるかの努力が背景に垣間見られます。
一方、④昨年のレクト開店(西区)に続いて今年4月にはジ・アウトレット広島(佐伯区)が開業した『商工センター周辺』(9.2%)の増勢の陰で、⑧支持率を大きく下げた『廿日市市役所周辺』(5.8%)、⑤2年連続マイナスの『宇品・皆実周辺』(8.7%)と優勝劣敗の構図は明らかとなりました。LECTはイズミ系、The Outlets はイオン系の“コト消費”を標榜する新業態商業集積なので、見方を変えれば“モノ消費”で中心街を凌駕し成長を続けてきた既存の郊外型大型量販店が曲がり角を迎えたことの証左と言えよう。毎年調査を実施している広島修道大学(商学部:川原教授)は、広島商圏は「オーバーストア(店舗過剰)の状態になり、中心街と郊外の競争だけでなく、郊外エリアの間でも競争が激しくなっている。ターゲット層を明確にした特色ある店づくりが集客のポイントになる」とコメントされています。
 翌日から掲載された解説編の「競争の構図(商圏調査)から」のタイトルは、【上】郊外店 店舗過多に~シェア食い合い激化~(11月28日)、【中】中心街 改装で特色~再開発への対応が鍵~(11月29日)、【下】「コト消費」に照準~ネット通販に対抗~(11月30日)。小生評としては、オーバーストアは言わずもがな…ネット通販も既報(vol.45:小売再生)通り…、再開発に関しては平成10年の「中心市街地活性化法」制定により全国の中小都市で特色ある街づくりが進展していく中で、広島はあまりにも遅れ馳せながらの市街地再開発を伴う賑わい回復の動きなので決して褒められたものではない(※因みに本年10月に紙屋町・八丁堀地区が都市再生緊急整備地域に指定)。しかしながら、益々高齢化が進展していく我々の生活環境の中で郊外分散型モデルの限界は明らか(無尽蔵な住宅団地の外延化が西日本豪雨災害の甚大な被害にも帰結)であり、都心部における公共交通や公共施設の再集約化を伴うコンパクトシティ化による求心力の回復は不可欠な流れと期待したい。

【経営のプチ勘所vol.46:2018年ヒット商品番付~平成の輝きネバーエンド、踊り出す次代のヒット~】

 12月5日(火)に日経MJ(流通新聞)恒例の「2018年ヒット商品番付」が発表されました。今年の東横綱は『安室奈美恵』、対する西の横綱は『TicTok』、大関は東『スマホペイ』、西『サブスクリプション』という顔ぶれ。他にも、東西小結に『Vチューバー』・『eスポーツ』、『カメラを止めるな!』(西前頭筆頭)、『新型クラウン』(前頭3枚目)、『バトルロイヤルゲーム』(前頭7枚目)などインターネット技術(SNS等)を応用した幕内力士が多数。皆なわかる方はどれほど居られるだろうか(正直、私は半分程度…利用経験はゼロです)?
 前稿でネット攻勢に対抗するリアル店舗の術として「小売再生」を採り上げましたが、Windows95の発表から23年…我々の暮らしは着実にIT社会化が深化浸透しています。私も常々、C.ダーウィンの進化論を用いて“変化に適応する者のみが生き残る(そうでない者は淘汰される)”とSWOT分析の重要性を力説していますが、その変化の速さはドッグイヤーと称されるだけに想像以上のもので、今更ながら眼を見張るものがあります。
 ところで、今回の巻頭タイトルには、平成最後に相応しい商品・サービスが並び、30年間を懐かしむような過去の流行のリバイバルが若い世代にも受け継がれているとある。アムラーのほかDA PUMPの『U.S.A』(東前頭筆頭)である。これはテレビを観ていると否が応でも目に飛び込んでくるので皆さん知っていますよね。若者ウケした勘所は“ダサかっこよさ”なんだそうで、他にも『グッチ』のリバイバルブーム、ダサいけど機能性が評価され人気の『ダッドシューズ』(東西前頭9枚目)などが入幕しています。
 来年2019年は平成最終年、働き方改革、消費税アップと大きな変化が目白押しで、価格や時間の使い方が今以上に敏感になると言われています。
何れにせよ、時代の感性を受け止めチャンスに変える能力を経営者は失わないことです。ヒット商品番付には若者の方が相性も受容度も高いものが多いようですが、中高齢の経営層には経験に裏打ちされた羅針盤がある筈です。新商品・新サービスには使ってみて初めて解るものも多いだけに、来るべき変化の“肝心なところ(勘所)”をちゃんと理解し、的確な経営判断をすべくトレンドを抑え感性を磨いておきたいもの。先ずは、いくつになっても好奇心を失わない若さと、人の話を素直に聴く謙虚さを大切に日々精進しましょう。

【経営のプチ勘所vol.45:小売再生~リアル店舗はメディアになる~】

これは私が今年読んだ中で最も衝撃的な本だった。小説と違って、【起承転結】が明確な4部構成のいかにも論文調スタイルだが、各部タイトル毎に予想を超える説得力のある内容…特に従来の小売店にとって経営の厳しさを伝える鬼気迫るレポートの数々に圧倒された。
私がこの本を手に取ったのは、最近の自分の購買行動を振り返るにつけ、何故かネット購入が多いなあと感じたから…、対するリアル店舗での買物と言えば、食料品を除くとごく僅か、広島カープの優勝セールで買った家電製品位のもの。それも以前、Amazonで買ったアクションカメラが壊れたため、その代用品として5年間修理保証目当てでたまたまEDION店頭で見かけた後継新製品にそそられたから。それ以外の高額品の殆ど、例えばドローン、車載冷蔵庫&クーラー、ポータブル充電器等々はAmazon・楽天・Yahooのいずれかという実態だった。そう言えば最も高額だった自動車は、日産ディーラー経由で普通に買ったが、これもこの本によるとネット通販での購入が市民権を得つつあるとのこと。
こうした中、今週日曜の11月11日、中国の「独身の日」のセール情報が日本でも大々的に報じられた(※写真参照)。なんとたった一日の取引額が2,135億元(約3兆5千億円)と、楽天の2017年1年間の取扱高の約3兆4千億円を超えたというもの。因みに、我が国最大の小売業であるイオングループ年商が約8兆7千億円、続くセブン&アイグループが約6兆7千億円ということから見ても如何に巨大であるかが窺われる。私も知らなかったが、世界最大の電子商取引市場は今や中国で、2015年にアメリカを抜いてその差は2倍にも開いているとのことで、Amazon(米国)のみならずアリババ(中国)恐るべしだ。いやそれだけではない…、私が購入したドローンも充電器もmade inChina、通販市場のみならず製品技術もいつの間にか世界のトップクラスに君臨し始めた中国パワーは脅威だ。

【起】第Ⅰ部:小売はもう死んでいる
 「もう小売店は店をたたむしかない」で始まる本章では、世界最大の小売業ウォルマートの減退と引きずり下ろしたAmazonの飛躍に象徴されるアメリカの業界変動、上述の世界の現状が赤裸々に示されている。特に、Amazonは実店舗の独壇場とされてきた唯一の聖域である「顧客サービス評価」においてもウォルマートをはじめとする殆どの従来型小売企業を圧倒して首位に立つまでになったとのこと。これは私も感じていたことで、ネット購入品の不具合(返品等)を何の抵抗もなくスムーズに対応してくれるAmazonには驚きと同時に感謝さえ覚える体験をした。
 従来型広告を頼りに目先(短期)の収益確保に必死な既存小売業者とは対照的に、迅速な配送への飽くなき挑戦やプライム等の不採算承知のプラットフォーム(長期)を次々構築して消費者を惹き付けるAmazonの余裕の差は歴然としている。
手軽さや利便性が売りのオンラインショッピングに対して、手間や過酷さがつきまとうオフラインショッピング。その差は開く一方…今日私たちが思い描く実店舗のような情報の少ない場に敢えて足を踏み入れる意味はなくなる(第7章)。

【承】第Ⅱ部:メディアが店舗になった
今、小売の世界で起こっている変化は二極化だ。ネット通販が成長し、実店舗は淘汰以外の選択肢がない(第8章)。それは我々診断士が常識として学んできた購買意思決定モデル、即ちパーチェスファネル(AIDAモデル)をも覆す…上下反転して実店舗の3つの役割が消滅してメディアが商品配給の場=店になりつつある。
私は消費者が購入を決めるまでの一連の流れがなくなってしまったらと考え及ぶにつけ、マーケティング(MK)もインストアマーチャンダイジング(ISM)の公式が崩壊する怖さを認識させられた。小売業経営者諸兄はこのゾッとする事実に気付いておられるであろうか?
現在のEコマース3.0の発展形として、AIで実現するCコマース(対話型コマース)の世界、更にはVR(仮想現実)の実用化によってネット通販最大のネックである返品問題が解消されたショッピングの未来形(視覚・触覚・嗅覚でも商品を確かめられるようになる)が説得力を持って紹介されている。
第Ⅱ部最終13章のタイトルは「もうリアルな店はいらない?」で結ばれている。

【転】第Ⅲ部:店舗がメディアになる
 【起】【承】でこれでもか!と言わんばかりに強迫され続けてきたが、ここで【転】じて実店舗の必要性を説いて我々を安心させてくれる。例えば、人間にとってショッピングや人混みは潜在意識に深く刻み込まれたニーズであり、買い物の場での興奮やわくわく感は決してデータ主義のみでは提供不可能であること。また、楽しいショッピング体験は一種の麻薬効果と同等にドーパミンの放出を伴うものであること。更には、意外なことにミレニアル世代(1984年~2004年に生まれた世代)の若者ほど実店舗を高く評価している(オンラインショッピングよりも店舗を訪れる方を好む)という好都合な事実が伝えられている。
それを裏付けるように、最近ではAmazonほかネット通販専業業者が次々と実店舗を設置する動きがあることが紹介されている。これは最終的な消費額は実店舗での買い物客を下回り易いという事実から導かれた対応策であるが、彼らにとってはショールーム機能を持つことでハロー効果が期待され、実店舗をオープンさせると多くの場合はオンラインの売上が急増(約4倍に伸長)するという…「実店舗=オンライン販売の増加」という方程式が成立するためである。
じゃあ…既存の小売店はどうあるべきなのか?つまり現実のお店の殆どが月並みで退屈の極みであり、ろくなことがないと思われていることにこそ問題の本質が隠されている。そうとは知らず、全くその逆にデジタル体験等の若者迎合的なイベントを繰り返す小売業の姿は滑稽極まりないものと言えよう。
実店舗の目的、そしてその成否を測る物差しについて、抜本的に考え方を改める必要がある(第15章)。
最後に、未来のショッピング空間として纏められているのは、「商品」流通を促進するためだけの存在を超えた「体験」を流通させるという姿が示されている。「ストア」から「ストーリー」へ…私も何度となく伝えてきた所謂“コト消費”への移行(モノ消費でなく)そのものと言ってよかろう。品揃えより独創性を…、友達の数よりも本当の交流を…、常設型から仮設型へ…、オムニチャンネルから瞬間重視へ…(第17章オムニチャンネルの終焉)。

【結】第Ⅳ部:小売再生戦略
 最終第Ⅳ部の結論は既に明快であろう。本稿ではその答えの詳細を紹介することを敢えて憚ることにして、その章タイトルのみ以下に列記しておく。何故ならば、私が常日頃接している中小企業の多くの経営者に共通する問題、即ち、勉強しない…深く考えない…悪癖を乗り超え“変わろう”という意識を持った方のみが生き残ればいいと考えるから。世の中が大きく変化しているにも拘わらず、“変われない=変わらない”会社は、消費者にとって不必要な存在になることをどうか肝に銘じて頂きたい。
・第20章:他者に破壊される前に自己破壊できるか
・第21章:小売のイノベーションを再定義する
・第22章:アイデアだけでなくプロトタイプを
・第23章:創業者のように考える
・第24章:帝国ではなくネットワークを築け
・第25章:小売は死なず

如何でしょうか?テーマ名だけで言いたいことが判る方…一応、生き残りの予備軍として自信(決して過信でなく…)を持って頑張って下さい。そういう経営者なら私も応援させて頂きますから…(笑)。

【経営のプチ勘所vol.44:因果関係~対症療法のワナ~】

最近、物忘れが激しい(;_;)/~~~
6月末に持病の“ぎっくり腰”を再発し、漸く元通り走れる程度に回復したかと思った矢先…今度は先月末頃から左肘痛のため重いモノが持ちあげられない事態に陥っている。
自分的には西日本豪雨災害の土砂掻き出しボランティアに行きたくても行けない忸怩たる思いから脱却できるか…と思った矢先の腕の不調ということで、兎に角情けなさだけが募る毎日です。
この間まで運動不足から発症した炎症かと軽く考えていたのだが、3週間位経過した今も容体の改善がないことから原因を探ってみた。不図思い出したのは…この間の東日本大震災後の東北視察旅行の際、大雨の乳頭温泉(秋田県)で、①滑り易い木道を、②滑り易いゴムサンダルで歩いていて‥転んだ事件でした??。
他の人達が居たので、尻餅をつかず‥左腕で格好よくリカバリーした積もりでいましたが(温泉♨湯治や飲酒?で一時的に和らいでいたので忘れてた‥)、それから痛みが始まったということ‼
その間、自分では筋を伸ばしたり…腕をグルグル回したり…兎に角、運動不足系が原因と勝手に思い込んでいたため、更に症状を悪化させる作動系の間違った対症療法を毎日続けていた訳です?。当然ながら、打撲なのか…骨折なのか(多分これはないでしょうが?)…動かさず安静系の治療をベースにすべきことからすると、まるで真反対の選択をしてしまいました。

翻って業としている企業経営の世界を考えてみました。この20年間の支援過程で出遭った色んな企業の絵が走馬灯の如く頭に浮かんできました。
①経営者(経営陣)が部下を信頼できず…貴重な現場情報を汲み上げることなく唯我独尊の命令で誤った方向に会社を導いて業況悪化を招来してしまった企業は数多。こうしたケースは高齢経営者のワンマン企業に多く見られ、若手社員や後継者を適切に育てて来なかった風通しの悪い企業の行く末です。
②この間、NHK番組「プロフェッショナル仕事の流儀」に登場した某地元信用組合。そこは全国的にも優れた金融機関として評価されていて、番組構成上も一見すると素晴らしいと思われるものでした。ところが…私だけでなく仕事上絡んだ方の裏評は逆のもので、悪い会社の例示としてよく言われる有能な社員の退社(定着率の悪さ)が横行しているのは地元では知る人ぞ知る周知の内情だ。
①②の何れも…組織内部の人間ほど、真剣に行く末を憂える人はいない訳で、上に立つ人間は心して自覚して措かなければならないこと。
多くの現象の背景にある…多くの原因、その中から真因を的確に捉え正しい経営を行うことの難しさゆえ、「実るほど首を垂れる」如き謙虚な姿勢が求められます。
(※写真:久々に晴天の3連休…おとなしく?犬散歩(静養)、ひじ痛サポーター)

【経営のプチ勘所vol.43:東日本大震災の被災地巡り旅(後半:宮城県)】

【東日本大震災被災地巡りvol.3】
無料高速道路の三陸復興道路の整備が進んで、アクセスは格段に向上‥県境を超えて宮城県気仙沼へ入りました。
前回訪ねた際、車中泊して印象深いJR気仙沼線の大谷海岸駅‥他の町が太平洋に向かって高い防潮堤が当然のように存在するのに対し、ここは全く無防備に見え不思議な気分のまま駅前に到着。
周りにあった筈の街並みが無くなり、海岸すぐ近くの駅だけがポツンと存在を主張してきた。ただ、よく見るとプラットホームから海岸に直結していた高架橋がない‥更に線路が寸断されている。ホームには“あの日を忘れないためそのまま保存”との主旨の慰霊碑がありました。
観光客の気配の全く感じられないこの場所に佇むにつけ‥胸を抉られる思いがしました。

【東日本大震災被災地巡りvol.4】
①南三陸町;志津川お魚通り商店街、②石巻市;アイトピア商店街、この2箇所は経済産業省「(新)頑張る商店街100選」に選ばれた‥あの日までは確かに元気な中小企業者の居た街である。
私も勉強のため訪れ、そして飛び込みにもかかわらずその秘訣を教えて頂いたことがある。
果たして皆さん大丈夫だっただろうか?‥いつも気掛かりだった。
①志津川は有名な防災対策庁舎の近くに新しく造られた「南三陸三三(さんさん)商店街」が大にぎわい(^-^)v…市場も機能していて、鮮魚で人気というコンセプトが健在で安心しました。
②石巻は沿岸部を除いて‥以前の建物も結構残っていて一見大丈夫そうに見えましたが、営業中のお店は半数以下といった感じ。前に話を聞いた商店街リーダーのお店は確認できませんでした。
最後に、桜の名所「日和山公園」に上がって街の様子を確認。ここは学生時代のGW休みに、青森から自転車で東北地方縦断した際の最終地点。花見客に交じって賑やかな街並みを見下ろした記憶が戻り、やるせない空虚感に包まれました。


【経営のプチ勘所vol.42:東日本大震災の被災地巡り旅(前半:岩手県)】

【東日本大震災の被災地巡り旅vol.1】
あちこち気儘な東北の旅をして参りましたが、本日より本来の旅の目的「東日本大震災」の被災地巡り。
今日は久慈から釜石まで‥朝一“じぇじぇじぇ”の「あまちゃん」ロケ地の小袖海岸では☀晴れてましたが、南下に従ってやはり☔雨模様。
昼御飯で被災者さんに貢献しようと、田野畑の仮設店舗「浜茶や食堂」でウニ丼を食べようと探して行くもお休みだったので、次の田老で3店舗を構える地元名店ながら全て津波にのみ込まれ消滅‥新たに道の駅で再出発された「喜助屋食堂」で名物のどんこ丼➕わかめラーメンのセット(¥1,200)を頂きました。
更に南下して山田町では湾内いっぱいに牡蛎筏が浮かぶ様子を見て少し安心しましたが、どの町も高い防潮堤が続々と整備中で‥特に宮古では湾内ぐるりと万里の長城の如き高い壁(石段50段以上?‥)が取り巻く異観には絶句でした。
実は自分は震災8ヶ月前の夏に、この地区の商店街視察を兼ねて主な観光地には足を運んでいるので、今回は北山崎・浄土ヶ浜などのメジャー所はスルーして‥思い入れのある所を中心で廻ろうと考えてました。
しかし、釜石大槌町の根浜海岸へは未だに通行止めで訪ねること能わず‥代わりに最近こけら落としが終了したばかりで来年のWカップ?ラグビー会場になる鵜住居震災復興スタジアムに寄ってみました。

【東日本大震災被災地巡りvol.2】
東北地方は☔雨が続き、然したる観光(無論登山は無理)は出来ずやや悶々とした旅の空の下です(*_*)。
次に訪ねたのは、岩手県南部の大船渡~陸前高田‥高田の松原も街もすっぽり無くなってしまっていた。あの「奇跡の一本松」?モニュメントツリーに群れる観光客の列が虚しさを増します。
ここを以前訪ねた2010年7月、当時4才の元気盛りの愛犬?が松原をダッシュしていた画像?も見つけたので‥比較アップします(※割愛)。

【経営のプチ勘所vol.41:西日本豪雨災害に想う】

広島では7月9日…東日本では6月中に早々と梅雨明け宣言が出された今年は極端な空模様のようです。特に、西日本では6月28日から7月8日にかけて台風7号と梅雨前線の停滞で、例年通りの梅雨末期の大雨がやって来て、特に7月6日(金)夜の豪雨災害は市内のみならず県内広範囲に及び、4年前の市北部の土砂崩れを上回る未曾有の惨禍を巻き起こしました。
私も前日の5日(木)に車で尾道・福山の備後行脚に出掛けた折、午後から激しい雨が降り続き…帰り道既に至るところで路上に雨水がオーバーフローしており、非常にヤバイ雰囲気を感じながら広島に戻ってきました。翌朝は季節柄よく症状が現れる持病の尿管結石&ぎっくり腰の治療に市民病院へ行って来ましたが、この日も終始強い雨が続いて遂に夕方以降…各地で大災害が発生してしまいました。

経営的には自然災害は避けようのない不条理であり、ある意味仕方ないことかも知れない。しかしながら、東日本大震災をきっかけに大企業では非常時の緊急対応計画なるものの策定が進み、事業の機能不全を極力避ける仕組みが採り入れられつつある。そもそも大企業は組織上の拠店が分散していて、停止した機能の代替を図る組織内連携に視野を置くことで自らの裁量で円滑な運営を進めることが可能である。
それに対し、中小企業は立地上の制約や経営資源の脆弱性から自助努力による挽回には限界がある。恐らく今後、国(行政)から再建資金の無利子融資等の各種被災地支援策が打ち出されると思われますが、問題は逆境にめげずに再び復活しようとする経営者の意欲が保持できるか否かである。いくら無利子でも今以上の多額の借金を借り増して長期間の返済を余儀なくされることを思うと、尻込みして廃業を選択する経営者も少なからずあろうかと斟酌する。
瀬戸内の温暖な気候に恵まれ、これまでの常識としては災害に無縁とされてきた広島で中小企業者の支援を業として行う者として、その辺りの実情について、7年前に発生して既に集中復興期間の5年間を経過した東日本大震災の被災地訪問を今夏中に行ってみて肌身に感じてみたいと思う。

【経営のプチ勘所vol.40:破天荒!サウスウェスト航空~NUTSは健在か?~】

ナッツ・リターンと言えば大韓航空副社長(ナッツ姫)の“非常識”極まりない事件でしたが、同じナッツ(NUTS)でも良例として使われるのが米サウスウェスト航空です。こちらは俗語で“変わり者(どうかしている)”という意味で用いられるNUTSでMBAケーススタディに必ず登場する有名企業、航空業界で小さなこの会社が“非常識”な成功を収めた秘訣を著した「破天荒!サウスウェスト航空~驚愕の経営(1997年)」の米字書名が「NUTS! Southwesut Airlines,Crazy Recipe for Business and Personal Success」なのです。この本は小が大を制する痛快な武勇伝を綴りつつ、各章末尾に“小規模企業で成功する秘訣(Success in a NUTSHELL)”が要約されていて、私も拙稿『斧:経営名著』のコーナーに何度か引用記事を紹介させて頂いてきました。
そのサウスウェスト航空が4月17日にエンジン爆発事故を起こして同社初の死亡事故となる乗客女性の上半身が窓から吸い出されたのに続き、その半月後5月3日にも再び窓に亀裂が入り緊急着陸という連続トラブルが報じられ株価下落等の影響も避けられないとの情報も聞かれる事態に直面しているとのこと。LCCの先駆けと言われる同社は、①低運賃、②多頻度運航/定時到着(ピーク・オフピークの2段階運賃制度)、③10分間ターン(他社は50分とされる往復駐機時間を大幅に短縮)で飛行機の稼働率を劇的に高める“非常識”なビジネスモデルを開拓したことは有名ですが、その土台としての「世界で最も安全な航空会社10傑」に格付機関から選定されていた安全神話が揺らぎつつあるのは事実でしょう。
同社は1967年に創設されたが1971年に就航するまで先行大手のイジメ等から草創期の危機に晒されたが、それを乗り切った1973年以降は米航空業界で唯一黒字経営を継続してきた。そのエンジンの一つが業界初の利益分配制度の採用で、株式の10%を従業員が所有し経営者感覚を持って現場で自主的に行動する社員に競争力の源泉があるだけに株価下落の影響は少なくないと思われます。
しかしながら、この事故に関する他の情報ソースには、事故機に搭乗していた女性機長(元米軍戦闘機パイロット)の的確な対応や事故後の会社としての補償対応などの賞賛の声も聴かれるなど、“強靭”で“創造的”、しかも“臨機応変”と言われるサウスウェスト航空の個性が健在な様子が窺われます。これは官僚主義的な大企業に反発する自発能動的な社員が引き寄され、彼らを信頼して任せ決してレイオフせず家族的な固い結びつきを大事にする会社の優れた経営資源があるためでしょう。これは日本企業の良さと悪さを内包したアンチテーゼでもあり、多くの企業に学んで欲しい革新的なDNAです。
さて、今般の連続事故の影響をどう見るか?…数年後恐らく、この逆境が更にこの会社を“成長”させたという評価を得るものと私は確信してます。

【経営のプチ勘所vol.39:SCコト消費…広島の陣】

 GW休み前日の4月27日(金)、広島市西部の石内地区(佐伯区)にイオンの新型SC戦略店舗「THE OUTLETS HIROSHIMA(ジ・アウトレット広島)」がオープンした。去年の4月には同じ西部の商工センター(西区)にイズミのコト消費提案型新店舗「LECT(レクト)」が開業しており、5月6日(日)の日経MJ紙第1面の見出しに“SCコト消費、仁義なき戦い~8割初物vs.地元№1、広島の陣~”として特集記事が組まれるなど、既に飽和状態が囁かれつつある国内32兆円の巨大なショッピングセンター市場の今後を占う動きとして全国的な注目を集めている。
 私も昨日5月8日(火)に「ジ・アウトレット広島」を初訪問、GW期間中は混雑が報じられていたが、この日は平日で私の訪ねた午後には雨が重なったことから駐車場も余裕がありゆっくり視察することが出来ました。小売業最大手の8兆3,900億円の営業収益を誇り国内170ヶ所のSCを展開するイオングループでありながら地域毎では必ずしもトップシェアではない実情の中、中四国・北部九州を地盤に地域性を武器に競合するイズミは売上規模ではイオンの10分の1にも満たない規模でありながら地域№1の位置に君臨する謂わば目の上のたん瘤的競合店。
記事によると、イズミの商業施設やこの地域になかった新たな価値を提供するべく、①物販・飲食店舗では8割近いテナントが広島県初出店、②県内にはない通年利用のスケートリンクやボーリング、VRゲーム等の体験型エンタメ施設が充実するなど、イズミの牙城広島を切り崩すべく従来型のイオンモールとは異なるフォーマットを備えた新たなチャレンジ店舗だとされている。
 同店訪問の印象として、①海外ネットワークを生かした初物等ブランド価値(グローバルソーシング)のみならず、②地域の作家や地元店舗を集めた現地化(地域密着ローカリゼーション)にも配慮され、かつコト消費という共通テーマを持ちながら「LECT」を凌駕する大規模性が備わった中四国最大級の店舗(商圏は車で110分)はインバウンド需要も取り込み市内外から専門性を求める莫大な集客力を十分予見できるものであった。一方、規模では後塵を拝することになったレクトには、ホームセンターCAINZと連結した日常的な買い物の利便性があることから地元客を中心に根強い需要も期待できるとみられる。いずれにせよ中小店にとっては一層厳しい環境に晒されることは避けられないので、これら大型店同士の同質的な競争に巻き込まれないだけの価値磨きで切磋琢磨を図って“キラリと光る個店”として生き残り…勝ち残りを果たすべく頑張って頂きたい。
この両店とも我が家から直線距離で5㎞圏内に立地しているので、今後も折に触れて訪問してイオンvs.イズミの広島対決と商業地図、小売業態の動向について定点観測してみようと思う(※左?写真:ジ・アウトレット広島、右?写真:LECT)。

【経営のプチ勘所vol.38:多品種少量生産・6σ】

 旧知の友人が役員を務める会社からの特命依頼で「ものづくり補助金」申請書の作成支援を行い〆切の4月27日の前々日書類提出を見届けました。彼は私が補助金頼みの経営は邪道という主義から当該補助金の書面審査を引き受ける一方、この手の代書依頼には対応しないことを承知の上で相談して来られたので、無礙には断れない仲なので取り敢えずアドバイスをさせて頂くつもりで遡ること2ヶ月前に面談に応じました。聞けば平成24年以来この補助金に応募すること4回、所謂私の忌み嫌う“補助金コンサル”が関与しても悉く落選してきたとのこと。こうした過去の経緯と企業内容を聴くにつけ、優れた技術を持つ会社でありながら“木を見て森を見ず”という感じでボタンを掛け違えたかのような申請内容のために不採択になっている様子が判りました。あれこれ指導をさせて頂いて数日後、再度強い要請があって本件お引き受けすることになったもの。
 審査ポイントの参考をお示しするならば、①技術面、②事業化面の計8項目における客観性・明確性・優位性・収益性・実現性などが問われることから、補助金云々を超えた全社経営戦略(森)があって初めて設備投資(木)が活かされるといったストーリーを構築すべき点では経営の王道通りと思います。当社の場合、建設機械・産業機械の大手メーカーから部品生産を請け負うだけの技術を有しながら、少品種多量生産タイプの低付加価値な下請的性格が色濃いという課題があり、そうした体質からの脱却を目指した対極の戦略方向性を訴求することになります。本稿では以下に、1.多品種少量生産、2.6σ(シックスシグマ)を概説しますが、これは当社が更に精密度を磨いて航空機・高速鉄道・発電プラント等の高付加価値かつ成長新分野に軸足を移していくための基礎理論ですが、当社を知れば知るほど楽しくなる遣り甲斐のある仕事に関わらせて頂いた満足感に浸ってGW休みを満喫できそうです。

1.多品種少量生産…小ロット生産を実現するには、段取時間の短縮、多能工化、生販売一体化などの基本的条件を整備しなけらばならない。そのためには、①管理システム改善、②物的システム改善の両輪についてメスを入れる必要があり、当社の場合は長年にわたって外注内製化に取り組み、中流(加工)工程では概ね自社一貫生産を達成。今般の補助事業の一方の目的である上流・下流工程の取り込みによりQCDレベルの大幅向上が期待されます。
①管理システム:生産計画、材量所要量計画、手順計画、発注、在庫把握、納期管理、日程計画・差立て、進度管理、工数管理、オペレーションコントロール・パフォーマンスコントロール等の一連のシステム化。
②物的システム:レイアウト計画、作業(加工)方法・段取作業・運搬・補完方法等の改善。

2.6σ(シックスシグマ)…シグマ(σ)は標準偏差と呼ばれ、6σとは100万分の3~4回というミス・エラーの発生確率を実現するというハイレベルな経営手法。補助事業の他方の目的は“キサゲ”と呼ばれる職人技で作り込んだ超高精度な加工機を導入することで、航空機・高速鉄道・発電プラント等の精密度が要求される事業分野への対応を目指すというもの。既存事業部門で大手メーカーを相手に磨き込んだ技術力を礎に展開可能なレベルにあり、既に各分野に関連する大手との商談が進んでおり実現可能性も高いと判断されます。

【経営のプチ勘所vol.37:従業員満足(ES)】

3月15日(木)に広島商工会議所小売商業部会(小生所属)の二本立てセミナー「企業成長の源泉“従業員満足(ES)”について考える」を聴講してきました。

1.前半:広島修道大学商学部松尾准教授の基調講演「従業員満足とインターナル(社内)・マーケティング」
 ①サービス・プロフィット・チェーン、②インターナル・マーケティングの両理論に基づいて、サービス業の人手不足と生産性向上、働き方改革をテーマに現状と課題について論究されました。スカンジナビア航空の「真実の瞬間」をはじめ、リッツカールトンホテル、スターバックスコーヒー、サウスウェスト航空など有名ネタを基にどこまで斬り込まれるか!…と興味津々で聴き進みましたが、人に投資⇒エンパワメント⇒従業員満足で定着率アップを図り離職を防ぐという、私にとっては取り立てて目新しい内容ではなく若干一般論的に終わったのは残念でしたが、体系的な知識の復習という面では役立つものでした。
但し、最後に触れられた「人員確保・増大の落とし穴」で、①働かない社員・働く意思のない社員の増加、②組織は腐敗する(=腐ったリンゴ問題)と、《能力》×《働く意志》の高低4つのマトリックス整理は面白い内容で、理想的従業員は大手へ行って中小企業は採用しにくいため、ヤル気は有るが能力の低い従業員をちゃんと研修で伸ばす必要がある点は頷けるものでした。
※下図(左):当事務所作成のBSC・SPC講義レジュメよりES・CSの関係性を概説。

2.後半:㈱フレスタ人事総務部の事例発表「『働きやすさ』と『働きがい』を実現する組織風土創り」
 ご当地の有力食品スーパーであるフレスタは一消費者(実店舗・宅配)として頻繁に利用させて頂いていますが、この取り組み事例紹介を聴いて企業としての戦略性の高さに正直驚かされました。
 先ず、ヘルシストスーパー実現のための“5つの健康”、①地域(継続的CSR・ブランディング活動)、②商品(健康Bimiとライフスタイル型商品)、③サービス(利便性の向上・オムニチャンネル)、④従業員(働きやすさ・モチベーション)、⑤健全な経営(KPI=ROI・ROA)という基本戦略を構築。
次に、④従業員に対する“働きやすさ”を実現すべく現状課題を組織活力診断によって的確に分析して公平感と柔軟性のある人事諸制度を構築・運用、“働きがい”の創出のために個々の従業員の動機にきめ細かくフォローして有給休暇の取得促進や社内表彰、面談等を通して満足度アップを図るなど、「風土」「評価」「研修体系」など教学する組織を目指した諸々の示唆に富んだ取り組みに感心しました。

【経営のプチ勘所vol.36:再生支援ネットワーク】

 2月26日(月)に日本政策金融公庫広島支店が全国に先駆けて組織化し注目を集めている「第2回再生支援ネットワーク会議」が開催されました。
 再生支援ネットワークとは企業の“再生支援を通じて地域への貢献度を高める”をテーマとして平成29年8月に設立され、①金融機関と専門家との連携強化、②公庫との連携強化、③経営改善センターの積極利用の3つの目的を共有する広島地域の官民横断的な連携組織です(第1回Kickoff会議H29年8月25日開催)。
 具体的な支援対象・内容は、早期再生が可能なリスケなどの状況にある企業に対して金融支援を実施するというもので、通常は債務超過等の業績不振に陥っている場合は前向きな融資増額対応は基本的に無理なところ、本スキームでは確りした再生事業計画の裏付けのもと“真水”分を含めた資金支援の道が開かれます。
 今回の第2回会議では設立後半年を経過しての以下3つの融資事例が紹介され、当事務所「経営考房」が関与させて頂いた融資事例(事例2)の発表依頼に応じご報告させて頂きました。金融格付けが低位にある当該企業に対する融資として3つの事例の中では最も大きな案件を担当しましたが、①融資金利が▲0.5~1%低下&②融資増額という結果にお客様から望外の喜びのお言葉を頂戴したことが私にとって何よりも嬉しいことでした。
《融資事例1》コンサル(ビズサポート)⇒金融機関(地銀)へ持込:売上2.6百万円(債務超過▲5.7百万円)の零細経営コンサルタント融資…真水0.8百万円を含む3百万円
《融資事例2》金融機関(広島県信用組合)⇒コンサル(経営考房)へ持込:売上56百万円(債務超過▲6~50百万円)の中堅スポーツジム融資…真水7百万円を含む15百万円
《融資事例3》金融機関(広島信用金庫)⇒公庫へ持込:売上31百万円(債務超過▲21百万円)の吹付塗装業向け融資…真水1.4百万円を含む2.5百万円

【経営のプチ勘所vol.35:IE七つ道具】

 わが国における経営学は、戦前において「骨はドイツ、肉はアメリカ」と言われるようなものとして形成・発展せしめられ、戦後においてはアメリカ経営学を主流として現在に及んでいる。これは大学2年次から所属したゼミナール恩師の三戸 公先生の基本書「経営学」の序章からの引用です。経営経済学と訳されるドイツ流の学問は“価値理論”に拠るのに対し、アメリカ流は飽くまで“組織管理論”として生きた企業(…のみならず組織)を対象として現場で役立つ学問として発展してきたことによります。
 今年第1回目のテーマとして採り上げた「IE」はテイラー・システムに始まる科学的管理法を源流とするもので、1970年代から80年代にかけてのわが国高度成長のベースは戦後逸早くこうしたアメリカ式IEを学び、それをQC活動等(TQC・TQM・TPM・TPS:トヨタ生産方式)によりカイゼン進化させてきた賜物とされます。IE手法は製造業で培われたメソッドですが、今日では製造門のみならず幅広く活用され、労働生産性が低いとされるサービス業等でも応用されて付加価値向上に役立つ事例も数多く報じられるなど注目を集めています。本稿では“基本中の基本”である七つ道具をご紹介します。

1.工程分析…最も基本的な現状分析手法のひとつで、工程を①加工(切断・穴あけ・研削・組立など)、②運搬、③検査、④停滞(貯蔵)の4つに区分して工程順序に従って表示する。そして問題工程の時間・距離・方法を改善することで、生産期間(L・T)の短縮およびコスト削減を狙いとする。
2.稼働分析…①人および②設備について、動いている状態を連続または瞬間観測法で観測し、その活動の時間的構成比率を統計的に推測し標準時間設定などに活用する。作業内容を稼働(価値ある作業)と非稼働(価値のない作業)に分けて全体の問題点を容易に把握することで改善重点を見つける。
3.動作研究…ムダな動作をなくし効率的な疲労の少ない経済的・人道的動作の組み合わせを確立するために、作業の動作を要素作業(加工・運搬)から最小単位の動作作業(探す・つかむ等サーブリッグ)の段階まで細かく分解し、定量的に分析することで不要作業の洗い出しや改善対象・順序が視覚化できる。
4.時間研究…作業時間の経過をストップウォッチ・ビデオなどを活用し正確に測定することで、問題点の把握とその改善による標準時間への活用などを行っていく考え方と手法。前述の1.~3.の「方法研究(Method Engineerring)」と共にIE改善技術を構成する「作業測定(Work Measurement)」の主な手法である。
5.物流分析(マテリアル・ハンドリング)…会社外での輸送から、会社内でのマテリアル・ハンドリング(荷降ろし・積替え・集荷・移動・積込み・出荷作業などの一貫した品物の取扱い)の時間・距離などを定量的に把握することで、改善を定量的・効果的に推進する手法。
6.プラント・レイアウト…レイアウト(工場内設備などの配置)の巧拙は、工場建設~改修~廃棄に至る工場生涯に亘って経済的に大きな影響を与える。工場の建屋、設備配置、材料置場などの最適配置により、最も効果的に製品を生産するためにその実態を月々の製品の流れの中で的確に把握していく手法。
7.事務(工程)改善…長年にわたる現場改善と生産合理化により直接付加価値を生み出す製造現場での労働生産性は著しく向上してきたが、付加価値を生まない事務・間接部門の改善は進んでいないため事務改善でのムダを省き事務部門比率を2~3割にスリム化を図っていく手法。

【経営のプチ勘所vol.34:障害者就労A型事業所 破綻問題】

今朝のNHK「おはよう日本」7時台ニュースの特集(けさクロ:けさのクローズアップ)で採り上げられたテーマは『福祉事業所相次ぐ閉鎖の波紋』、広島でも11月に福山の「しあわせの庭」が経営破綻し、障害者(利用者)112人が一斉解雇され大きな問題になっています。先週12月22日の広島県障害者自立支援協議会(就労支援部会)でも議事の一つとなったテーマでもあるので、今年最後の投稿はこの問題について“経営の視点からプチ”考えてみます。
1.就労継続支援A型事業所とは
平成18年に制定された障害者自立支援法(平成25年度に障害者総合支援法へ改正・改称)の施行に伴い、それまでの福祉工場や授産施設等の様々な障害者福祉サービス事業が新類型に位置付けられました。大きく分けて民間企業への一般的な就職を目的とする就労移行支援事業と、通常の雇用が困難なため福祉施設の中で働き続ける就労継続支援事業に二分され、後者は更に就労継続支援A型(最低賃金以上の賃金支払条件)と就労継続支援B型(最賃法適用外の工賃支払)に細分されます。
平成27年度の一人当たり月額賃金(全国平均)はA型67,412円(広島県86,780円)、B型15,033円(広島県15,939円)と別に障害年金約65,000円(障害基礎年金2級受給額)と併せた収入はB型では月10万円にも満たず生計維持が厳しい実態にあります。因みに、当然ながら障害程度は就労移行が軽く、就労継続B型は重いという両極の中間にA型があり、賃金は図示グラフの通りB型は徐々に上昇傾向なのに対しA型は次第に低下、これは新制度では規制緩和によりそれまで主体であった社会福祉法人等に加えて民間企業・NPO法人等にも当該事業への参入が可能になったため、比較的取り付きやすそうなA型事業所が謂わば“野放し”感覚で増えていったからと思われます。
2.破綻に至る構造的課題
私は平成19年から県庁の依頼を受けてB型を中心とする低工賃の向上を目的とする支援を行っており、年数回の上記会議にもボランティア的に参加しております。この会議で約2年ほど前から“悪しきA型問題”という言葉が聞かれ始めました。それが今回破綻した事業所のように、障害者の雇用人数に応じて一人当たり最大3年間240万円交付される国の自立支援給付金(特定求職者雇用開発助成金等)を目当てにした安易な新規参入による混乱が各地で起きているという話題でした。障害者の立場からすると、今のB型等所属先事業所よりも高い賃金が貰えるA型事業所が雇ってくれるなら変わりたいのが親心…ここに目を付けた愛知県のコンサルティング会社が大々的に当該助成金をあてにしたA型事業所開設指南を吹聴し、楽に儲けたいという顧客がそれに乗っかった結果がこの事案の背景にあります。そういった内情を掴んだからか、NHKけさクロでは元凶の名古屋市を例示して「事業収入だけでは給料を賄えないA型事業所が約8割」というフリップを用意し、悪徳経営者が自身の古美術品購入に流用した取材画像を放送しました。因みに、新聞記事の方には中国地方でA型が一番多いのは岡山県で160ヶ所、2番目が広島県の87ヶ所と続き、破綻例も7月末に倉敷で5事業所223人の大量解雇に続いての今回の福山問題(平成27年5月開設)となっているように、水面下で岡山から備後地域にかけて悪しきクチコミ等で伝染していったようです。
念のため付言しておきますが…上記不正流用は論外として、障害者事業所には①社会福祉等一般事業会計のほかに、②就労支援事業会計を別建て区分する二本立ての会計制度で事業決算を行うよう制度付けされており、国の補助金は①前者(職員人件費・運営経費等)への充当は許可されているが、②後者の収益事業を伴う就労事業に係る収支不足(今回は直接利用者賃金に充当)は賄うべきではなく、この点を厚生労働省が今年4月の省令改正で厳格化したのが直接の原因と言われています。
3.学ぶべき経営姿勢
上述の通り、そもそもの主旨を勘案すれば事業者は当然正しい運用をするのが“王道”であって、決してずる賢い抜け道・裏道の“邪道”を歩むべきではありません。また、目先の儲け口としてそれを指南した黒幕が同業(中小企業診断士?)と知るにつけ余計に残念で堪らない思いです。
今回の事業所の場合、経営力の無さが指摘されていますが、それ以上に大事な真因は理念不在ということだと思います。以前、私は県庁事業にて県内約50ヶ所の福祉事業所を直接巡回訪問して経営指導をする機会があり、福祉という事業に参画する以上…ただでさえ組織にとって不可欠な「経営理念」が更に一層重要であることを確認しました。福祉事業所にとってお客様は障害者等の社会的弱者であって、万が一破綻等があれば行き場を無くしてしまうような社会的影響力のある事業体なので、自組織が潰れて破産して終わりでは済まない訳です。今一度、経営理念として必要な3要素、①存在意義、②経営姿勢、③行動規範を嘘偽りなく宣言し、利用者の皆さんの人生を永きに亘ってサポートしていく事業責任を全うして頂きたいものです。

【経営のプチ勘所vol.33:2017年ヒット商品番付(決まり手はウチ充)】

12月1日、年末恒例の第34回新語・流行語大賞2017の発表があり、今年の大賞は「インスタ映え」と「忖度」に決まりました。よく耳にし、確かに!…と頷ける言葉でしたね。去年は広島カープの25年振りセ・リーグ制覇の象徴用語「神ってる」が大賞に選ばれ、広島人として…CARPファンとして…誇らしかったことを想い出します。
さて、この時期、私が注目している他のランキングに、日経MJの【ヒット商品番付】があります。こちらは人気沸騰の商品・サービスなどを相撲の番付に擬えて発表するもので、消費の最前線を捉えた…謂わば時代のトレンドがわかる点で、商売人や経営者としてアンテナを敏感に伸ばしておくべきポイントが掴めるので要チェックすべきと思います。
去年の横綱は「ポケモンGO」と「君の名は」…大関は「シン・ゴジラ」と「AI」、今年の横綱は「アマゾン・エフェクト」と「任天堂ゲーム機」…大関は「安室奈美恵」と「AIスピーカー」。注目は2年連続の最高位に入ったAI(人工知能)、そしてタイトルにある通り…消費者の「ウチ(家・内)」の中での生活をより便利に楽しく充(み)たすようなインターネット通販関連の商品・サービスの深まりです。また、1億総活躍や働き方改革といった社会構造変化を踏まえたお悩み対応商品…例えば、小結の「シワ取り化粧品」「睡眠負債商品」など、従来から根強い健康関連ニーズを更に進化させる動きとして今後の注力ポイントの一端が垣間見られたように思われます。
因みに、個人的な興味としては、去年の小結…カープ優勝とオバマ米大統領の訪問で湧いた「広島」、今年の前頭七枚目…イズミ「LECT」が各々、全国番付入りしていることが嬉しい次第でした。

【経営のプチ勘所vol.32:マーケティング4.0の到来】

世界的に広く知られた近代マーケティングの父…フィリップ・コトラー「マーケティング4.0~スマートフォン時代の究極法則~」の第1刷発行日は2017年8月30日。昨秋、広島に来られた際にも、本稿HP【vol.14:コトラー来広~マーケティング4P+2P~】で紹介させて頂いて注目コトラーの最新刊だけに私も早々に購入していたところ…去る11月1日、愛読紙である日経MJが年1回発表する「第35回サービス業総合調査」の今年のタイトルとして早速採用、コトラー氏が提唱する概念が現実化してきたと報じられました。
今月の経営のプチ勘所では、当該記事の裏付けとなるマーケティング概念の1.0~4.0に至る構造的変遷を簡単に整理するととものに、最新の4.0概念に基づく収益拡大手法について解説してみたいと思います。
1.マーケティング1.0:製品中心~作り手による生産・販売志向~
1908年にフォード社が世界初の大衆車「T型フォード」を世に出して以来、工業化時代のマス市場(需要>供給)における関心はより多くの購買者に買ってもらうことであり、規格化と規模拡大で生産コストを低減する《製品管理》を軸にマーケティングという概念は1950年代の米国で市民権を得たとされます(注)。謂わば、1社独占の“作れば売れる”時代の生産志向と、その後競合他社も出現して“(自社製品を)いかに沢山売るか”という販売志向を通し、「機能」的価値を訴求する“1対多数の取引”原理のもとに展開していました。そのためマーケティング1.0の標準モデルは、マーケティング・ミックスとして知られる「4P」(Product・Price・Place・Promotion)を中心とした戦術的性格のものでした。
(注)コトラー最初の大著「マーケティング・マネジメント」では、①その源流はピーター・ドラッカー曰く1650年頃江戸時代に三井家が最初に開いた百貨店にあること、②マーケティングという言葉が初めて使われたのは1905年ペンシルベニア大学の講座とされています。
2.マーケティング2.0:顧客中心~買い手である消費者志向~
1970年代、石油ショック等の不確実な時代に入り需給バランスの逆転(需要<供給)で「4P」だけでやっていけなくなると、マーケティングの重要性は一層高まり「STP」(Segmentation・Targeting・Positioning)を付加した戦略的次元へと進化しました。「機能」的な物質ニーズに加えて「感情」的価値(マインド・ハート)を追求する洗練された特定市場の消費者を、情報化社会の進展による《顧客管理》技術で差別化して“1対1の関係”を築くことで効果的な需要創出を図ろうと展開しました。
3.マーケティング3.0:人間中心~社会的責任を両立する価値志向~
グローバル化のティッピング・ポイント(転換点)とされる1989年…パソコンがビジネスの主流に入り込み、90年代初めにインターネットが誕生して以降…価値主導の段階に入ったとされています。現代我々は選択する製品・サービスに「機能」的・「感情」的充足だけでなく「精神」的価値も求めるようになってきました。スティーブン・コヴィー博士の言う全人的存在、即ち「肉体」「マインド」「ハート」「精神」の人間の基本的構成要素の全てに訴求して“魂の暗号を解く”努力が必要になってきた訳です。マーケティングはこれまでの「縦の関係」に加え、「横の関係」に支えられたクチコミ・SNSを含めた他人の意見を信頼する“多数対多数の協働”時代へ移り変わりつつあります。このため企業や商品の選考基準に環境や社会貢献等を含めた《ブランド管理》の要素が加わりました。マーケティング3.0の将来モデルは「3i」(Bband-identity・Brand-integrity・Brand-image)というコンセプトから成る完全な三角形を形成することにあるとしている。
4.マーケティング4.0:~3.0の自然な発展形としての自己実現志向~
コトラーの「マーケティング3.0~ソーシャル・メディア時代の新法則~」が出版されたのは2010年9月、最新刊マーケティング4.0はデジタル経済におけるカスタマー・ジャーニー(注)の質の変化に適応する必要があるため…3.0の自然な発展形として示したもの。本稿では第3部「デジタル経済におけるマーケティングの戦術的応用」から売上増大のためのオムニチャネル・マーケティングの実行策として、オン・オフ様々なチャネルを統合してシームレスで一貫性のある顧客経験を生み出す手法が紹介されています。
伝統的マーケティングでは「認知」~「行動」までのセールス・サイクルを扱うのに対し、デジタル・マーケティングでは「推奨」に進ませることを重視する。マーケティング4.0とは、企業と顧客のオンライン交流とオフライン交流を一体化させるマーケティング・アプローチであり、その手法として、①モバイル・アプリを使ってデジタルな顧客体験を高める、②ソーシャルCRMアプリを使って顧客をカンバセーションに参加させソリューションを提供する、③ゲーミフィケーションを使って望ましい顧客行動を促すことができるとしています。CS顧客満足理論の進化版としても注目すべきでしょう。
(注)製品やサービスを知った顧客が購入・推奨に至るまでの「5A」の道筋。認知→(Aware)→訴求(Appeal)→調査(Ask)→行動(Act)→推奨(Advocate)。