【経営のプチ勘所vol.61:「論語」を読むシリーズ~第12回:逆境下での経営】

【⑫第12回:逆境下での経営】

広島県庁リモート会議より

コロナ禍でZoom利用等からビジネススタイルも大きく変わりつつありますが、変化はリスクとチャンスの両面を持ち合わせています。現下の環境激変をきっかけに確り下地を固めて、来るべき飛躍を見据えた経営を目指しましょう。

■子曰く、歳寒くして、然る後に松柏の彫しぼむに後るるを知るなり。《泰伯篇》

‥(訳)冬の寒さが厳しくなったときに、はじめて松や柏がいつまでも凋しぼまないでいることが確認できるのである。

⇒目下、想定外のコロナ禍が続いて多くの企業が逆境に晒され、市場からの退出(倒産・廃業)を余儀なくされる会社も少なくありません。こうした自己責任に帰さない経営環境の悪化に対しても、一定の経営体力を保持していれば耐え抜いて生き残っていくことが可能な訳です。普段から逆境に備えた内部留保を蓄積し、財務上での自己資本を充実しておくこと(最低20%~理想50%超)が肝要です。

樹々の世界において常緑の松柏は、新緑や紅葉に彩られる広葉樹と比べて決して派手ではありませんが、寒い冬でも枯れることなく緑の葉をつけ積雪に耐えています。攻守のバランスの取れた経営を貫き、長きに亘る繁栄を目指して貰いたいものです。

■子曰く、人、遠き慮りなければ、必ず近く憂いあり。《衛霊公篇》

‥(訳)遠い先のことまで対策を立ててかからないと、必ず足もとから崩れてしまう。

⇒現代日本語「遠慮」の語源でありながら、全く違う意味合いを感じさせる至言です。これは遠望深慮と表現すればわかり易いと思いますが、目先の“短期”的な問題に捕らわれて右往左往するのではなく、もっと先を見越した“中長期”的な視点を持つことの大切さを訓えてくれます。

ソフトバンクの孫正義会長は永年こうした考え方を貫いてきた経営者として有名ですが、曰く「目の前の波の高さが数メートルに及ぶ大荒れの海でも、目線を水平線の先に置けば目標はブレずに安定している」として、次々と新事業を計画してM&Aにより企業成長を果たしてきた訳です。

経営の世界では、長期=戦略的な“改革”レベルの判断のもとに、短期=戦術的な“改善”レベルの実践活動を積み重ねていくPDCA活動が求められます。因みに、経営判断に際しては、著名な経営書『ビジョナリー・カンパニー』~時代を超える生存の法則(ジム・コリンズ著)~で「Orの抑圧」をはねのけ、「Andの才能」を活かす…という有名なフレーズがある通り、私自身の指導方針として、決して短期か長期かという二者選択の話ではなくて全体最適の視点を忘れず理想を掲げ統合経営を目指すべきとアドバイスさせて頂いております。

※なお、本稿「論語」シリーズを受けて、来月(7月)からは「経営名著」シリーズの復刻にて更に経営を掘り下げてお伝えしたいと考えております。

【経営のプチ勘所vol.60:「論語」を読むシリーズ~第11回:君子の道】

【⑪第11回:君子の道】

■子、子産を謂う、「君子の道四あり。その己を行なうや恭。その上に事うるや敬。その民を養うや恵。その民を使うや義。《公冶長篇》

‥(訳)孔子が子産を批評してこう語った。「あの方は、君子としての資格を四つも備えていた。第一に、態度が謙虚であった。第二に、君主に対しては敬意を忘れなかった。第三に、人民に対して恩恵を施した。第四に、人民を使役するのに節度を心得ていた」

⇒孔子の君子評たる恭・敬・恵・義、人を引き付ける魅力ある経営者として備えるべき資質と言えるでしょう。

■曾子、疾あり。孟敬子これを問う。曾子言いて曰く、「鳥のまさに死せんとするや、その鳴くこと哀し。人のまさに死せんとするや、言や善し。君子の道に貴ぶ所のものは三つ。容貌を動かしてはここに暴慢を遠ざく。顔色を正してはここに信に近づく。辞気を出だしてはここに啚倍ひばいを遠ざく。籩豆へんとうの事は則ち有司存せり」。《泰伯篇》

‥(訳)曾子は病が改まったとき、見舞いに来た孟敬子に言った。「鳥は死に際になると、ひときわ哀しい声で鳴く、人間は死んでいくとき嘘のない言葉を言い残す、と言われています。どうか私の話すことをしっかりと聞いてください。君子の守るべき礼には、大切なことが三つあります。第一は、立居振舞をきちんとすること。そうすれば粗暴さから免れることができます。第二に、表情を正しくすること。そうすれば信頼感を高めることができます。第三に、言葉遣いに気を付けること。そうすれば軽薄さから遠ざかることができます。祭祀の運営の如きは、係の役人に任せておけば宜しいでしょう」

⇒容貌・顔色・辞気に気を付けること、これが君子たる礼節の在り方と言われています。

■孔子曰く、君子に三戒あり。少き時は、血気未だ定まらず、これを戒むること色に在り。その壮なるに及んでは、血気方に剛なり、これを戒むること闘に在り。その老ゆるに及んでは、血気既に衰う、これを戒むること得に在り。《季氏篇》

‥(訳)君子は生涯に三つのことを警戒しなければならない。青年時代は血気が未だ定まらないので、色欲を警戒する。壮年期には血気が満ち溢れてくるので、闘争心を警戒する。老年期には血気が衰えてくるので、物欲を警戒する。

⇒君子も世俗に生きる人間、出家僧侶のように欲から完全に離れた存在ではないので、色・闘・物の3つの欲を自制して人格を高めていかなければならないとされます。