【経営のプチ勘所vol.35:IE七つ道具】

 わが国における経営学は、戦前において「骨はドイツ、肉はアメリカ」と言われるようなものとして形成・発展せしめられ、戦後においてはアメリカ経営学を主流として現在に及んでいる。これは大学2年次から所属したゼミナール恩師の三戸 公先生の基本書「経営学」の序章からの引用です。経営経済学と訳されるドイツ流の学問は“価値理論”に拠るのに対し、アメリカ流は飽くまで“組織管理論”として生きた企業(…のみならず組織)を対象として現場で役立つ学問として発展してきたことによります。
 今年第1回目のテーマとして採り上げた「IE」はテイラー・システムに始まる科学的管理法を源流とするもので、1970年代から80年代にかけてのわが国高度成長のベースは戦後逸早くこうしたアメリカ式IEを学び、それをQC活動等(TQC・TQM・TPM・TPS:トヨタ生産方式)によりカイゼン進化させてきた賜物とされます。IE手法は製造業で培われたメソッドですが、今日では製造門のみならず幅広く活用され、労働生産性が低いとされるサービス業等でも応用されて付加価値向上に役立つ事例も数多く報じられるなど注目を集めています。本稿では“基本中の基本”である七つ道具をご紹介します。

1.工程分析…最も基本的な現状分析手法のひとつで、工程を①加工(切断・穴あけ・研削・組立など)、②運搬、③検査、④停滞(貯蔵)の4つに区分して工程順序に従って表示する。そして問題工程の時間・距離・方法を改善することで、生産期間(L・T)の短縮およびコスト削減を狙いとする。
2.稼働分析…①人および②設備について、動いている状態を連続または瞬間観測法で観測し、その活動の時間的構成比率を統計的に推測し標準時間設定などに活用する。作業内容を稼働(価値ある作業)と非稼働(価値のない作業)に分けて全体の問題点を容易に把握することで改善重点を見つける。
3.動作研究…ムダな動作をなくし効率的な疲労の少ない経済的・人道的動作の組み合わせを確立するために、作業の動作を要素作業(加工・運搬)から最小単位の動作作業(探す・つかむ等サーブリッグ)の段階まで細かく分解し、定量的に分析することで不要作業の洗い出しや改善対象・順序が視覚化できる。
4.時間研究…作業時間の経過をストップウォッチ・ビデオなどを活用し正確に測定することで、問題点の把握とその改善による標準時間への活用などを行っていく考え方と手法。前述の1.~3.の「方法研究(Method Engineerring)」と共にIE改善技術を構成する「作業測定(Work Measurement)」の主な手法である。
5.物流分析(マテリアル・ハンドリング)…会社外での輸送から、会社内でのマテリアル・ハンドリング(荷降ろし・積替え・集荷・移動・積込み・出荷作業などの一貫した品物の取扱い)の時間・距離などを定量的に把握することで、改善を定量的・効果的に推進する手法。
6.プラント・レイアウト…レイアウト(工場内設備などの配置)の巧拙は、工場建設~改修~廃棄に至る工場生涯に亘って経済的に大きな影響を与える。工場の建屋、設備配置、材料置場などの最適配置により、最も効果的に製品を生産するためにその実態を月々の製品の流れの中で的確に把握していく手法。
7.事務(工程)改善…長年にわたる現場改善と生産合理化により直接付加価値を生み出す製造現場での労働生産性は著しく向上してきたが、付加価値を生まない事務・間接部門の改善は進んでいないため事務改善でのムダを省き事務部門比率を2~3割にスリム化を図っていく手法。