「バーナード組織論の現場での応用」
広島大学生物生産学部 副学部長 三本木 至宏
〇謹読者(私)の研究動機
・バーナードが大著「経営者の役割(The Functions of the Executives)」を発行したのは1938年。21世紀の今日もなお組織論のバイブルとされる同書だが、現代社会での経験からくる違和感から、改めて原書を読み込み3つのエピソードを通して幾つかの最適訳を提起しつつある(※現在全370頁のうち61頁訳読:研究途上)。
〇エピソード(1)
・組織の存続条件は従来、①有効性(effective)と、②能率(efficient)と表現され、謂わば経営学の常識とされてきた。それに対し、三本木氏は現場フィルターで濾過した新訳として、①効果(目的の達成)と、②効率(個人の満足)を掲げ、両条件をより明確に対比し、①はショッピングモール、②は商店街に擬えて、衰退した商店街をSC化するという解決策の限界を指摘。
〇エピソード(2)
・有名な公式組織の権限受容説で前提となっている「無関心圏」という概念など、バーナードが“学者”発ではなく米電話会社の社長として“実業家”発(ドラッカーと同じ土俵)で組織社会に切り込み共通理解としての経営者を紐解いたこと。
〇エピソード(3)
・奈良薬師寺食堂にある阿弥陀浄土図を示し、バーナードが概念を定義する時は「色気のない言葉」を使うこと、そして三本木氏は「色のない深層を土台とする色気は美しい」と表現された。
【山根:評】3つのエピソードとも、三本木先生によるバーナードとの時空を超えた対話が根底に流れていることに気付かされる深遠な研究発表でした。小生も学生時代に「経営者の役割」は読みましたが、何の疑問も持つことなく今日まで使ってきたキーワードについて、正に的確な指摘を聴いてハッと後ろ頭を殴られたような新鮮な感動を覚えました。
7月 2017のアーカイブ
【経営のプチ勘所vol.28:7月1日(土)経営考房 湖稜庵研修所 プレゼンツ「経営の達人3本建て講演会」~①アヲハタ㈱ 野澤社長:講演要旨~】
「私の今に至る歩みと会社の経営理念、目指す姿」
アヲハタ㈱ 代表取締役社長 野澤 栄一
〇私の歩み(自己紹介)
・田中真澄 氏の成功哲学との出会いから、1989年にはマンダラート(思考の整理方法)で自身の人生設計図を描いてきた。また、北海道日本ハムの大谷翔平 選手が花巻東高校時代にマンダラートで掲げた目標、①日本一になる、②日本人最速の163km/hを記録する、③ドラフトで菊池雄星(先輩)を越える8球団から1位指名を受ける、の身近な例示により思考整理の有効性についても言及されました。
・①夢(青春常駐)、②情熱(勇猛精進)、③執念(即是道場)を人生の経営理念とし、今日の働き甲斐、生き甲斐が持て、自身と会社の成長が一致する会社を目指して奮闘中とのこと。
〇私の事業観(仕事観)
・企業の目的は「社会貢献」、“利益”はそのための大切な原資。「会社に関わりある人」との信頼関係を強めながら“利益”を最大化することに全力を注ぐことが“正しい利益追求”のあり方である。
・社長の使命は会社の永続的存続・発展をはかる=「未来責任」を果たすこと。その為になすべきは、①事業革新、②集団意識のマネージメント、③関係性の構築(維持・向上と開拓)である。
〇アヲハタグループの経営理念
・社訓「正直」「信用」「和」とは、缶詰は中が見えないからこそ、人々の期待を超える信頼を大切にしなければならないという創業来の想いが込められており、こうした経営理念を体現する人材、信用、技術力がグループ成長の源泉である。
・ノートルダム寺院「三人の石工 の逸話」から、“働く”ということの意味は自分以外の誰かを幸せにすること(傍を楽にする)。
〇アヲハタグループの目指す姿
・中長期的には「ジャムのアヲハタ」から「フルーツのアヲハタ」へ針路を向け、“食生活”にとどまらず“生活シーン”を彩る会社を目指す。
・それを実現する羅針盤として、①先ずは「イチゴのアヲハタ」というイメージを確立するため、全社で展開して改革と成長を進めること、②「イチゴ」をセンターピンに展開して、「フルーツのアヲハタ」へと発展していく。
【山根:評】中小企業診断士の受験勉強を糧に、当時出向中の子会社の経営再建を成功させた野澤社長らしい理論と実践が伴う素晴らしい発表でした。あれから約10年が経過して、本社ならびにグループトップに就任された今日、若い頃から夢を持ち目標を定めて歩み‥そして様々な苦労を乗り越えてこられた経験を次世代の社員皆んなに伝えたいという情熱と愛情に胸が熱くなりました。