ナッツ・リターンと言えば大韓航空副社長(ナッツ姫)の“非常識”極まりない事件でしたが、同じナッツ(NUTS)でも良例として使われるのが米サウスウェスト航空です。こちらは俗語で“変わり者(どうかしている)”という意味で用いられるNUTSでMBAケーススタディに必ず登場する有名企業、航空業界で小さなこの会社が“非常識”な成功を収めた秘訣を著した「破天荒!サウスウェスト航空~驚愕の経営(1997年)」の米字書名が「NUTS! Southwesut Airlines,Crazy Recipe for Business and Personal Success」なのです。この本は小が大を制する痛快な武勇伝を綴りつつ、各章末尾に“小規模企業で成功する秘訣(Success in a NUTSHELL)”が要約されていて、私も拙稿『斧:経営名著』のコーナーに何度か引用記事を紹介させて頂いてきました。
そのサウスウェスト航空が4月17日にエンジン爆発事故を起こして同社初の死亡事故となる乗客女性の上半身が窓から吸い出されたのに続き、その半月後5月3日にも再び窓に亀裂が入り緊急着陸という連続トラブルが報じられ株価下落等の影響も避けられないとの情報も聞かれる事態に直面しているとのこと。LCCの先駆けと言われる同社は、①低運賃、②多頻度運航/定時到着(ピーク・オフピークの2段階運賃制度)、③10分間ターン(他社は50分とされる往復駐機時間を大幅に短縮)で飛行機の稼働率を劇的に高める“非常識”なビジネスモデルを開拓したことは有名ですが、その土台としての「世界で最も安全な航空会社10傑」に格付機関から選定されていた安全神話が揺らぎつつあるのは事実でしょう。
同社は1967年に創設されたが1971年に就航するまで先行大手のイジメ等から草創期の危機に晒されたが、それを乗り切った1973年以降は米航空業界で唯一黒字経営を継続してきた。そのエンジンの一つが業界初の利益分配制度の採用で、株式の10%を従業員が所有し経営者感覚を持って現場で自主的に行動する社員に競争力の源泉があるだけに株価下落の影響は少なくないと思われます。
しかしながら、この事故に関する他の情報ソースには、事故機に搭乗していた女性機長(元米軍戦闘機パイロット)の的確な対応や事故後の会社としての補償対応などの賞賛の声も聴かれるなど、“強靭”で“創造的”、しかも“臨機応変”と言われるサウスウェスト航空の個性が健在な様子が窺われます。これは官僚主義的な大企業に反発する自発能動的な社員が引き寄され、彼らを信頼して任せ決してレイオフせず家族的な固い結びつきを大事にする会社の優れた経営資源があるためでしょう。これは日本企業の良さと悪さを内包したアンチテーゼでもあり、多くの企業に学んで欲しい革新的なDNAです。
さて、今般の連続事故の影響をどう見るか?…数年後恐らく、この逆境が更にこの会社を“成長”させたという評価を得るものと私は確信してます。