【経営のプチ勘所vol.45:小売再生~リアル店舗はメディアになる~】

これは私が今年読んだ中で最も衝撃的な本だった。小説と違って、【起承転結】が明確な4部構成のいかにも論文調スタイルだが、各部タイトル毎に予想を超える説得力のある内容…特に従来の小売店にとって経営の厳しさを伝える鬼気迫るレポートの数々に圧倒された。
私がこの本を手に取ったのは、最近の自分の購買行動を振り返るにつけ、何故かネット購入が多いなあと感じたから…、対するリアル店舗での買物と言えば、食料品を除くとごく僅か、広島カープの優勝セールで買った家電製品位のもの。それも以前、Amazonで買ったアクションカメラが壊れたため、その代用品として5年間修理保証目当てでたまたまEDION店頭で見かけた後継新製品にそそられたから。それ以外の高額品の殆ど、例えばドローン、車載冷蔵庫&クーラー、ポータブル充電器等々はAmazon・楽天・Yahooのいずれかという実態だった。そう言えば最も高額だった自動車は、日産ディーラー経由で普通に買ったが、これもこの本によるとネット通販での購入が市民権を得つつあるとのこと。
こうした中、今週日曜の11月11日、中国の「独身の日」のセール情報が日本でも大々的に報じられた(※写真参照)。なんとたった一日の取引額が2,135億元(約3兆5千億円)と、楽天の2017年1年間の取扱高の約3兆4千億円を超えたというもの。因みに、我が国最大の小売業であるイオングループ年商が約8兆7千億円、続くセブン&アイグループが約6兆7千億円ということから見ても如何に巨大であるかが窺われる。私も知らなかったが、世界最大の電子商取引市場は今や中国で、2015年にアメリカを抜いてその差は2倍にも開いているとのことで、Amazon(米国)のみならずアリババ(中国)恐るべしだ。いやそれだけではない…、私が購入したドローンも充電器もmade inChina、通販市場のみならず製品技術もいつの間にか世界のトップクラスに君臨し始めた中国パワーは脅威だ。

【起】第Ⅰ部:小売はもう死んでいる
 「もう小売店は店をたたむしかない」で始まる本章では、世界最大の小売業ウォルマートの減退と引きずり下ろしたAmazonの飛躍に象徴されるアメリカの業界変動、上述の世界の現状が赤裸々に示されている。特に、Amazonは実店舗の独壇場とされてきた唯一の聖域である「顧客サービス評価」においてもウォルマートをはじめとする殆どの従来型小売企業を圧倒して首位に立つまでになったとのこと。これは私も感じていたことで、ネット購入品の不具合(返品等)を何の抵抗もなくスムーズに対応してくれるAmazonには驚きと同時に感謝さえ覚える体験をした。
 従来型広告を頼りに目先(短期)の収益確保に必死な既存小売業者とは対照的に、迅速な配送への飽くなき挑戦やプライム等の不採算承知のプラットフォーム(長期)を次々構築して消費者を惹き付けるAmazonの余裕の差は歴然としている。
手軽さや利便性が売りのオンラインショッピングに対して、手間や過酷さがつきまとうオフラインショッピング。その差は開く一方…今日私たちが思い描く実店舗のような情報の少ない場に敢えて足を踏み入れる意味はなくなる(第7章)。

【承】第Ⅱ部:メディアが店舗になった
今、小売の世界で起こっている変化は二極化だ。ネット通販が成長し、実店舗は淘汰以外の選択肢がない(第8章)。それは我々診断士が常識として学んできた購買意思決定モデル、即ちパーチェスファネル(AIDAモデル)をも覆す…上下反転して実店舗の3つの役割が消滅してメディアが商品配給の場=店になりつつある。
私は消費者が購入を決めるまでの一連の流れがなくなってしまったらと考え及ぶにつけ、マーケティング(MK)もインストアマーチャンダイジング(ISM)の公式が崩壊する怖さを認識させられた。小売業経営者諸兄はこのゾッとする事実に気付いておられるであろうか?
現在のEコマース3.0の発展形として、AIで実現するCコマース(対話型コマース)の世界、更にはVR(仮想現実)の実用化によってネット通販最大のネックである返品問題が解消されたショッピングの未来形(視覚・触覚・嗅覚でも商品を確かめられるようになる)が説得力を持って紹介されている。
第Ⅱ部最終13章のタイトルは「もうリアルな店はいらない?」で結ばれている。

【転】第Ⅲ部:店舗がメディアになる
 【起】【承】でこれでもか!と言わんばかりに強迫され続けてきたが、ここで【転】じて実店舗の必要性を説いて我々を安心させてくれる。例えば、人間にとってショッピングや人混みは潜在意識に深く刻み込まれたニーズであり、買い物の場での興奮やわくわく感は決してデータ主義のみでは提供不可能であること。また、楽しいショッピング体験は一種の麻薬効果と同等にドーパミンの放出を伴うものであること。更には、意外なことにミレニアル世代(1984年~2004年に生まれた世代)の若者ほど実店舗を高く評価している(オンラインショッピングよりも店舗を訪れる方を好む)という好都合な事実が伝えられている。
それを裏付けるように、最近ではAmazonほかネット通販専業業者が次々と実店舗を設置する動きがあることが紹介されている。これは最終的な消費額は実店舗での買い物客を下回り易いという事実から導かれた対応策であるが、彼らにとってはショールーム機能を持つことでハロー効果が期待され、実店舗をオープンさせると多くの場合はオンラインの売上が急増(約4倍に伸長)するという…「実店舗=オンライン販売の増加」という方程式が成立するためである。
じゃあ…既存の小売店はどうあるべきなのか?つまり現実のお店の殆どが月並みで退屈の極みであり、ろくなことがないと思われていることにこそ問題の本質が隠されている。そうとは知らず、全くその逆にデジタル体験等の若者迎合的なイベントを繰り返す小売業の姿は滑稽極まりないものと言えよう。
実店舗の目的、そしてその成否を測る物差しについて、抜本的に考え方を改める必要がある(第15章)。
最後に、未来のショッピング空間として纏められているのは、「商品」流通を促進するためだけの存在を超えた「体験」を流通させるという姿が示されている。「ストア」から「ストーリー」へ…私も何度となく伝えてきた所謂“コト消費”への移行(モノ消費でなく)そのものと言ってよかろう。品揃えより独創性を…、友達の数よりも本当の交流を…、常設型から仮設型へ…、オムニチャンネルから瞬間重視へ…(第17章オムニチャンネルの終焉)。

【結】第Ⅳ部:小売再生戦略
 最終第Ⅳ部の結論は既に明快であろう。本稿ではその答えの詳細を紹介することを敢えて憚ることにして、その章タイトルのみ以下に列記しておく。何故ならば、私が常日頃接している中小企業の多くの経営者に共通する問題、即ち、勉強しない…深く考えない…悪癖を乗り超え“変わろう”という意識を持った方のみが生き残ればいいと考えるから。世の中が大きく変化しているにも拘わらず、“変われない=変わらない”会社は、消費者にとって不必要な存在になることをどうか肝に銘じて頂きたい。
・第20章:他者に破壊される前に自己破壊できるか
・第21章:小売のイノベーションを再定義する
・第22章:アイデアだけでなくプロトタイプを
・第23章:創業者のように考える
・第24章:帝国ではなくネットワークを築け
・第25章:小売は死なず

如何でしょうか?テーマ名だけで言いたいことが判る方…一応、生き残りの予備軍として自信(決して過信でなく…)を持って頑張って下さい。そういう経営者なら私も応援させて頂きますから…(笑)。