21世紀の資本(LE CAPITAL)

 2015年始にあたり、フランスの経済学者トマ・ピケティが2013年9月に発表した話題の大著「21世紀の資本(Le Capital)」を採り上げます。昨年春の英訳版に続き日本語版も12月発売、全世界的なベストセラーの人気ながら、本編ページ数608(注・図表含めると約700頁)というボリュームから私以外にも正月休みに読書チャレンジしたという方も多かったことと思います。
【第Ⅰ部】:所得と資本~資本論といえば19世紀の知の巨人カール・マルクスの社会主義的経済理論。ピケティはマルクス以来の資本主義を振り返り、近年の経済成長(幻想と現実)へのアンチテーゼと2000年以降15年間にわたる世界的データの収集分析によりこの空白を埋める。
【第Ⅱ部】:資本/所得比率の動学~ヨーロッパから北米新世界へと波及していった資本の変化と所得比率、資本と労働の分配という命題を再考。資本収益率が経済成長率を上回っている、即ち、資本を持つものに更に資本が蓄積していくという不平等な現実をあぶり出す。
【第Ⅲ部】:格差の構造~労働と資本そして所得と富の格差は、新しいグローバル経済の普遍的拡大と少子化の進行等を背景とした世襲相続などの構造的分析から、21世紀を通じて長期的スパンで不平等が世界的に更に拡大していく。
【第Ⅳ部】:21世紀の資本規制~こうした不条理な現実の俯瞰をベースに、将来への教訓として21世紀的社会国家の形を提言。国家や権利の解体という過去の革命的な手法ではない現実的手法として、累進所得税の再考を通して世界的な規模で資本税を強化していくこと。
 格差社会の拡大を予言するピケティは、日本について「戦後の極めて高い経済成長と現在の低い成長との差が際立つ。私の論を例証している」と述べている。アベノミクス政策で沸き立つ少数のアッパー層の陰で少子高齢化が浸透しつつあり、対極にはロワー層である生活保護受給者数が過去最多という現実。昭和レトロの郷愁を含め、かつて幸せだった“1億総中流”という日本のビジネスモデルが過去の遺物で通用しない以上、将来の成長を目指して努力していくことは幸せの基本。私はピケティの示唆(ある意味“警鐘”)を前向きに受け止め、今年もご縁を頂く中小企業の皆様へのサポートをさせて頂きたいと思いました。

日経MJヒット商品番付

 日経MJ(日経流通新聞)が創刊された1971年以来の目玉企画ヒット商品番付について、同誌編集長の下原口氏の講演「ヒット商品番付が映す今どきの消費とその背景」セミナーを11月28日に東京で聴講してきました。私も独立開業以来、同誌の定期購読を続けております。特に、経営者の皆様に対する新しいマーケティング戦略を協議検討する際に、ベースとなるアイデアやトレンドの情報源として大変有益だと認識しています。ここでは聴講の翌週12月3日(水)付で発表された2014年ヒット商品番付の情報を含めて簡単なコメントをしてみたいと思います。
 先ず、セミナーでは“横綱を見れば、その年がわかる”として2001年の「イチロー」、2003年「昭和」、2006年「SC」等の西横綱の顔ぶれや、AV・iPod・一眼レフ・スマートフォン・アップルと連続して東横綱に顔を出し続けている「デジタル機器」のほか、2007年「ユニクロ・H&M」、2008年「セブンプレミアム・トップバリュ」等の一世を風靡した企業等が掲載。次に、東日本大震災以降の最近のトレンドとその背景に話は展開し、2013年上期のアベノミクスの表(盛り上り)と裏(守り)、同年間キーワードとして西の横綱となった「あまちゃん」に擬えた商品キーワードとして3Jぇ(Joshitsu/Join/Japan)の意味と番付上位商品について紹介。
 そして話は2014年に移り、公表前の週というジレンマを抱えつつも西横綱「妖怪ウォッチ」、東大関「アナと雪の女王」などエンタメが増税の年には流行るという独自の理論に関心(過去は1989年「カラオケ」、1997年「ポケモン」)。最後にこれからの商売に最も直結する今どきのヒットのキーワードとしての「突き抜け感一目瞭然」の提示と大事な観点としての革新で常識を打ち破ることやワンフレーズ・マーケティングの時代が到来!という最新トレンド。更に、次のヒットへの鍵として、①訪日外国人へのインパクト、②シニア層をどう取り込むか、③ネットの急速な進展への対応、④コンビニ一人勝ち、といった時代の見方について各データベースの裏付けとともに解説がありました。私たちも何とはなしに感覚的にはわかっていたような気がしますが、やはり日経MJが膨大な情報の中から多面的な考察を経て整理集約して頂いた貴重な評論の凄さを改めて再確認出来たセミナーでした。

一万年の旅路(ネイティヴ・アメリカンの口承史)

 アメリカ大陸に住むインディアンに語り継がれてきた伝承遺産について、イロコイ族の系譜をひく著者ポーラ・アンダーウッドが次世代に引き継ぐ責任を負って纏め上げた大著。立花隆氏は週刊文春の私の読書日記にて「素晴らしい本だ。…アドベンチャー物語として読んでも面白いが、それよりも、この物語全体は一族の学んだ『知恵』の物語賭して構成されており、そこがいちばん面白い。…一つ一つの教えに含蓄がある。」との書評を記している。
【Ⅰ】主な語り…7万年前から1万年前まで続いた最後のウルム氷期に一族が暮らしていた海(海の民)から山(山の民)への移動。そして物見の集団を送り出しながら、「北の西の北」の場所から「北の東の北」即ち北米大陸へのベーリング陸橋を経て旅する海辺の渡りの大冒険を通して一族が学んだ多くの知恵。「今日のことは見えても、目的とその達成に必要なものが何かをはっきり掴めなければ、今日の宿すもっと大きな可能性を汲み取ることができない」という至言に引き込まれる。
【Ⅱ】山の語り三つ~草の大海…「子供たちの子供たちの子供たちに生存という贈り物を与えるため」に北米大陸の北西部からロッキー山脈を越えて過酷な旅を続ける東進の歩み。失敗から会得した可能性の二重の輪を歩む知恵(一つひとつの予見にもっと別な解釈が成り立ちはしないか様々な可能性を読み解くこと)。知恵を授かったことへの感謝の象徴としての「3本の鷲の羽」(鷲は明日のまた明日を見通して、様々な可能性を現実となるずっと前に予見する)。
【Ⅲ】われらが美しいと名づける川…オハイヨ川の畔での暮らし。今日の豊かさが明日の不足に変わりかねないことを察し、多くの者が「継続」の道に満足しても、必ずしもそうでない者が現れ、彼らこそが「変化」の可能性をもたらし、知恵ある一族に災いを超えた存続の道を拓いてくれるとの世代を超えた一族のDNAが持つ崇高な価値観にただただ敬服。
【Ⅳ】東の大海~美しい湖…一族にとって3つ目の大海、即ち地中海、太平洋を経て北米大陸東部の大西洋岸に到達。そして先住多民族との争いを避けるべく遂に見つけた安住の地5大湖周辺。諍いを好まない知恵ある正義と平和な人々として知られた彼らの根本的な活動理念とは、①いかなる判断にも私情をはさまないこと、②己の一族の利益にも目を曇らせないこと、③全ての当事者の利益を公平に釣り合わせること、④平和な道を探求すること。
 1万年という悠久の遍歴から一族に累々と語り継がれてきた知恵の数々…日本人と同じモンゴロイドの壮大な旅路を通したロマンと人生訓に溢れる素晴らしい民族史。近代のインディアン迫害という悲劇を想起するにつけ、涙溢れる思いのする普遍的名著として心に留めて頂きたい一冊です。

人間性の心理学

今回は半世紀を超えて人事系バイブルの一つとされる「人間性の心理学」のレクチャーを行います。本書は1954年に米国心理学会会長を務めたA.H.マズロー教授の主著で、私自身にとっても立教大学2年生時の三戸ゼミナール夏合宿で初めて与えられた研究テーマとして思い入れのある教材です。学生時代には活字の解釈だけで四苦八苦(総頁数450のボリュームに圧倒される…)という状態だったように思い返しますが(社会に出てからわかったことですが…)、マズローの長い臨床経験に裏打ちされた社会を斬る鑑識眼の高さに驚くばかりです。
 本書は全18章で構成された大著で、その構成を私なりに整理すると、Ⅰ:第1~3章はこれまでの科学批判(アプローチ方法)、Ⅱ:第4~8章が欲求5段階説(本論の動機理論)、Ⅲ:第9~13章では人間の内面研究(自己実現的人間とは)、Ⅳ:第14~18章(マズロー心理学への諸考察)となります。以下、そのポイントを抜粋簡記しておきます。
Ⅰ:現状科学批判…多くの科学において手段と目的の転倒がみられるとの批判から、マズローは何よりも人間の価値を基礎に置いたアプローチであるべきこと、全体的・力動的な理論体系を構築すべきことを提言。私の持論である経営戦略の「人体健康模型図」の基盤であり、20世紀後半の経営学で常識となった全体最適理論のバックボーンにある考え方として有効性の高さが窺えます。
Ⅱ:欲求5段階説…人間が生来持っている欲求を低次元なものから高次元なものへ、①生理的欲求(労働基盤としての職の確保)、②安全の欲求(給与保証等の雇用安定)、③所属と愛の欲求(インフォーマルを含めた良好な職場環境)、④承認の欲求(出世・肩書き等の他者評価追求)、⑤自己実現の欲求(人生最高の究極的な欲求)と5段階に分類。一般的な人間は低次から順番に欲求が満たされて初めて次なる高次欲求へと欲望が移行するとされる有名な普遍的理論。カッコ書きの注釈は社会人として我々が生きていく際の興味の具体例を私なりに例示してみました。
Ⅲ:自己実現的人間…精神病理、脅迫、破壊性などの人間行動の背景を踏まえつつ、それらの敵対的な性質を受容しつつも超越して深遠な対人関係を構築して自律的に生きている自己実現者の特性を分析。因みに、生まれながらの自己実現者は10万人に1人(キリスト・釈迦牟尼等)、我々凡人はⅡ:①~⑤と地道なステップUPの後に到達する領域ですが、「大洋感情」と表現される神秘的経験が自己実現者へと昇華していく契機と思われる点を考慮するにつけ、一般的な人生において本当に第5段階の自己実現の境地に行き着ける人間は数少ないことを付言している。
Ⅳ:マズロー心理学諸考察…第9~11章を踏まえた諸考察(個人と人間の認知、目的と動機づけ、正常・健康・価値等)について改めて解説し、第18章で「積極的な心理学へ」との結論を導き出している。なお、付録として心理学への積極的なアプローチによって生まれる諸問題、即ちマズロー心理学が他に対してどんな影響を与えるかについて概観して本書は締めくくられている。

トヨタの問題解決

 今月は実務上有益なトヨタの経験値を集約した新刊本「トヨタの問題解決」を熟読しました。当事務所にはトヨタに関する著書として、JITシステムやTQC等の“現場改善力”の本の他、「トヨタの片づけ」「トヨタの育て方」「トヨタの伝え方」「トヨタの口ぐせ」などの柔らかめの本も多数備えています。本書はこれらの本の根底にある思考回路を集約しながら、世界のトヨタを形成したイノベーションの基盤となる“革新力”の秘訣を体系的に理解できる良書と言えます。その辺りの誤解を踏まえ、最初に「問題がない」が最大の問題であると問題提起し、問題の本質は“あるべき姿”と“現状”とのギャップであること、更に問題解決には、①発生型(日々の問題:班長)、②設定型(高い次元:組長)、③ビジョン指向型(より大きな視点:工長)と上位職へ人が育つに応じてレベルアップする仕組みを整理している。以下、問題解決の8ステップを簡略紹介します(※Step1・2が重要!=問題解決の70%が決まる!)。
【Step1】問題を明確にする:解決すべき問題テーマを「重要度・緊急度・拡大傾向」の3つの視点から選ぶ~定量化することで問題が明確になり重大さも共有できるので、“想い”ではなく“数字”データで問題を捉えること。「重要度」は問題が及ぼす範囲と大きさ、「緊急度」は直ちに手を打たないとどんな影響があるか、「拡大傾向」はこのまま放置しておいたらどれだけ不具合が拡大するか。
【Step2】現状を把握する:「層別」で問題をブレイクダウン(分解)し「攻撃対象」を見つける~データを多面的に捉えるため4W等の切り口で層別する。問題の特定段階で有効なのが「三現主義」=現地・現物・現実。取り組む問題は欲張らず、小枝(小さな問題:自力で解決できる問題で小さな成功を得る)から幹(大きな問題)へと攻めることが効果的である。
【Step3】目標を設定する:達成目標は具体的に数値で示す~あるべき姿と目標は異なる(やること・手段・安易な達成目標は不可)。2~3割増しの少し背伸びをしないといけないような目標を立てる。達成目標は“何を”“いつまでに”“どうする”の3つの要素で数値で示すこと。尚、定性的な目標は「KPI(目標達成のための重要な業績指標)」を用いて定量的に把握する。
【Step4】真因を考え抜く:問題が起きる真因(真の要因)を「なぜなぜ5回」で突き止める~抜本的な解決を図るには「真因」の追求が不可欠。その手法が有名な“なぜを5回繰り返す”こと。真因に迫るため「特性要因図(魚の骨図)」等のツールを利用して推定要因を抽出し、更に三現主義に基づいて事実との検証を行う。
【Step5・6・7】対策を立てて実行する:真因を特定したら解決するための計画を立てて実行する。その際、対策実行の効果を測るのも重要である~
【5】対策計画を立てる:真因をなくす対策案を出し効果的なものに絞り込む~沢山の対策案を出し、①効果、②実現可能性、③コスト・工数、④リスク、⑤自己成長の視点から優先順位を決める。
【6】対策を実施する:対策案を決めたら、チーム一丸となって素早く行動に移す~スピーディーに実施し、進捗チェックで効果・影響も評価する。報連相(報告・連絡・相談)を怠らないこと。
【7】効果を確認する:対策を実行した結果、目標を達成できたかチェックする~実行は定期限区切りで目標に対する評価を確認(OK⇒Step8へ、NO⇒Step4戻り)。結果だけでなく「プロセス」を振り返ることが肝要(トヨタでは、必然的かつ継続的に結果が出せることによってはじめて評価される)。
【Step8】成果を定着させる:誰がやっても同じ成果を出せるように成功のプロセスを「標準化」する~成功のプロセスは一過性で終らせることなく「標準化」し、仕組みとして「管理の定着」を図る(トヨタでは“歯止め”と呼ぶ)。更に、成果が関係部署に「横展」拡大して、問題解決プロセスが再現されて初めて100点満点となる(プロセスの共有が人やチームを育てる)。

レジリエンスの鍛え方

 今月は“名著”ではないが、今春のNHK番組「クローズアップ現代」に採り上げられ巷で“話題”の本を紹介します。レジリエンス(resilience)とは、失敗を成長の糧にして成功へと導く力のこと。私が興味を抱いたきっかけは、バブル崩壊後の失われた10~20年(リーマンショック含む)からアベノミクス等々で立ち直りかけた日本経済に確信の持てない悩み(事実消費増税の影響で4月以降一時的落ち込み傾向)から、今後の事業経営の舵取りに漠たる不安を抱かれた顧問先の2世経営者の相談を受けたことからです。同社では本書のエッセンスを役員・営業幹部社員向けに、私自身の逆境体験も“笑い(涙)”のネタにしながら面白おかしく解説させて頂きました(※私の半生談について湖稜庵で何度かお話したことがありますが、皆さん異口同音にご自身の抱える逆境を小さく思える=結構凄い半生との定評があります…機会あれば湖陵庵研修の折にお話します)。
 本著著者の久世浩司によると、レジリエンスには3つのステージがあるとされます。①精神的な落ち込みから抜け出し「底打ち」した段階、②レジリエンス・マッスル(再起するための筋肉)を使って再起する段階、③過去の逆境体験から一歩離れて高い視点から俯瞰する段階、の3段階をそれぞれ自分自身の人生チャートとして客観視し、その逆境物語(レジリエンス・ストーリー)を再起した者の立場で語ることにより、再び自信を取り戻し目の前の苦難を自力で乗り越えていく強さと逞しさが身に付くとのこと。書名の「レジリエンスの鍛え方」は、具体的な以下の7つの技術を通してその力が養われるとされます。
【第1の技術】ネガティブ感情の悪循環から脱出する!~ネガティブ感情は自分にあった「気晴らし」の方法(①運動系、②呼吸系、③音楽系、④筆記系)でその日のうちに解消する。
【第2の技術】役に立たない「思い込み」をてなずける~心の中の7種類の「思い込み犬」(①正義犬、②批判犬、③負け犬、④誤り犬、⑤心配犬、⑥諦め犬、⑦無関心犬)に対処する3つの選択肢(追放・受容・訓練)により意図的に手放す。
【第3の技術】「やればできる!」という自信を科学的に身につける~自分ならやれば出来るという「自己効力感」を養うには4つの方法(①実体験:直接的達成体験、②お手本:代理体験、③励まし:言語的説得、④ムード:生理的・情緒的喚起)がある。
【第4の技術】自分の「強み」を活かす~「何事かを成し遂げられるのは『強み』によってである。『弱み』によって何かを行うことはできない」とのドラッカーの名言。自分の本質的な強みを発見する2種類の方法(①強み診断ツール、②強みコーチング)がある。
【第5の技術】心の支えとなる「サポーター」をつくる~幸せの原動力は人と人との親密性にある。家族・友人・同僚・恩師など自分にとって大切な5人を選び(5フィンガー・ルール)、いざという時のサポーターとしてリストアップしておく。
【第6の技術】「感謝」のポジティブ感情を高める~感謝には、①幸福度を高める、②ネガティブ感情の中和、③体の健康、④思いやり、⑤前向き、といったポジティブな感情を高める効果があり、「感謝日記を書く」「3つの良いことを思い出す」「感謝の手紙を書く」の3種類のテクニックがある。
【第7の技術】痛い体験から意味を学ぶ~もがき奮闘した人にもたらされる5つの成長(①生への感謝、②深い人間関係、③自己の強さ、④新しい価値観、⑤存在と霊的意識の高まり)。上述のレジリエンス3つのステージを俯瞰して、逆境の意味を学ぶ。

ビジョナリー・カンパニー

5月は㈱広島銀行での「目利き能力養成研修」を翌週に控えた17日、話題の一つとして想定している「ビジョナリー・カンパニー(時代を超える生存の原則)」(ジェームズ・C・コリンズ)の精読会を行いました。本書も1995年に発刊されベストセラーとなって以降、2001年「同②(飛躍の法則)」、2010年「同③(衰退の5段階)」、2012年「同④(自分の意志で偉大になる)」が続々刊行されています。今回はシリーズ基本書を中心に解説しました。
【Ⅰ】基本理念を維持する
・【時を告げるのではなく、時計をつくる】ビジョナリー・カンパニーは「ウサギではなくカメ(長距離レースに勝つ)」であり、ひとつのアイデアに拘ることなく、長く続く素晴らしい組織を目指して粘り抜くもの。即ち「会社を製品の手段として見るのではなく、製品を会社の手段として見る」という価値観を持ち、短期的に大きな成果を上げ、かつ、長期的にも大きな成果を上げようとする(短期と長期のバランスをとろうとしない)。これを象徴する挿話として、「『ORの抑圧』をはねのけ、『ANDの才能』を活かす」という中国の陰陽思想と共通する考え方が基本にあること。
・【利益を超えて】ビジョナリー・カンパニーとして業界で卓越し広く尊敬されている企業(50年超の歴史・CEOが世代交代、製品ライフ・サイクル変遷)に共通するのは、設立以来一貫して経済上の目的を超えた基本理念があることについて各社事例を紹介。
【Ⅱ】進歩を促す(※基本理念を維持し、進歩を促すための具体的方法:以下5つのカテゴリー)
①社運を賭けた大胆な目標(BHAG):リスクが高い目標やプロジェクトに大胆に挑戦する(進歩を促す)。
②カルトのような文化:素晴らしい職場だと言えるのは、基本理念を信奉している者だけであり、基本理念に合わない者は病原菌か何かのように追い払われる(基本理念を維持する)。
③大量のものを試して、うまくいったものを残す:多くの場合、計画も方向性もないままに様々な行動を起こし、何でも実験することによって予想しない新しい進歩が生まれ、ビジョナリー・カンパニーに種の進化に似た発展の過程を辿る活力を与える(進歩を促す)。
④生え抜きの経営陣:社内の人材を登用し、基本理念に忠実な者だけが経営幹部の座を手に入れる(基本理念を維持する)。
⑤決して満足しない:徹底した改善に絶え間なく取り組み、未来に向かって永遠に前進し続ける(進歩を促す)。

7つの習慣

2014年春が到来、稀に見る豪雪でアクセス難にあった湖稜庵への車の往来が復活しました。今春から経営考房の湖稜庵研修所に所蔵の経営書の中から、毎月テーマを決めて「経営名著精読会(解説)」を開催することとしました。
 第1回は4月20日に湖稜庵で開催し、1996年の初版以来世界的大ベストセラーとなっている「7つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー著)を採り上げました(①~⑦)。
【第1部】パラダイムと原則:「正しい生き方なくして真の成功はあり得ない」としてインサイド・アウト(内から外へ変わる=私的成功が公的成功に先立つ)に基づく見方・考え方のパラダイム転換の大原則を解説。一枚の絵(悲しげな老婆にも、若く華麗な美女にも見える)では盛り上がりました。
【第2部】私的成功:①自己責任の原則(主体性を発揮する)では「成功は失敗の彼方にある」とした主体的な生き方を志向し、人材育成の基本である知識・スキル・ヤル気の3つの習慣を伸ばすべく努力すること。②自己リーダーシップの原則(目的を持って始める)では「人生の最後の姿を描き、それを念頭において今日という一日を始める」即ち個人的信条・価値観を持ちこうした中心から変わること。③自己管理の原則(重要事項を優先する)では「成功者の共通点は、成功していない人たちの嫌がることを実行に移す習慣を身につけている」とした時間管理の大切さ、特に大事を小事の犠牲にしてはならないこと。
【第3部】公的成功:④人間関係におけるリーダーシップの原則(WinWinを考える)は「すべての対人関係において成功するための基礎」であり、人格・関係・合意・システム・プロセスの5つの柱によって支えられていること。⑤感情移入のコミュニケーションの原則(理解して理解される)では「素人は商品を売り、プロはニーズや問題に対する解決を売る」という営業の基本例示など、心の底から相手を理解しようと努めること。⑥創造的な協力の原則(相乗効果を発揮する)では有名な「動物学校」の逸話から他者との相違点を尊びつつ最大のシナジー発揮を目指すことこそ人生における最も崇高な活動であること。
【第4部】更新再生:⑦バランスのとれた自己再新再生の原則(刃を研ぐ)では「自分自身という最も大切な資源を維持する」ため、(ⅰ)肉体面:週に3~6時間運動する、(ⅱ)精神面:毎日頭と心の平安を保つ瞑想を行う、(ⅲ)知性面:定期的に優れた本を読む[以上、①~③の習慣と関連]、(ⅳ)社会・情緒面:豊かさマインドを持つ[④~⑥の習慣と関連]、という人間が自然から授かった4つの能力をバランスよく伸ばすこと。