今月は実務上有益なトヨタの経験値を集約した新刊本「トヨタの問題解決」を熟読しました。当事務所にはトヨタに関する著書として、JITシステムやTQC等の“現場改善力”の本の他、「トヨタの片づけ」「トヨタの育て方」「トヨタの伝え方」「トヨタの口ぐせ」などの柔らかめの本も多数備えています。本書はこれらの本の根底にある思考回路を集約しながら、世界のトヨタを形成したイノベーションの基盤となる“革新力”の秘訣を体系的に理解できる良書と言えます。その辺りの誤解を踏まえ、最初に「問題がない」が最大の問題であると問題提起し、問題の本質は“あるべき姿”と“現状”とのギャップであること、更に問題解決には、①発生型(日々の問題:班長)、②設定型(高い次元:組長)、③ビジョン指向型(より大きな視点:工長)と上位職へ人が育つに応じてレベルアップする仕組みを整理している。以下、問題解決の8ステップを簡略紹介します(※Step1・2が重要!=問題解決の70%が決まる!)。
【Step1】問題を明確にする:解決すべき問題テーマを「重要度・緊急度・拡大傾向」の3つの視点から選ぶ~定量化することで問題が明確になり重大さも共有できるので、“想い”ではなく“数字”データで問題を捉えること。「重要度」は問題が及ぼす範囲と大きさ、「緊急度」は直ちに手を打たないとどんな影響があるか、「拡大傾向」はこのまま放置しておいたらどれだけ不具合が拡大するか。
【Step2】現状を把握する:「層別」で問題をブレイクダウン(分解)し「攻撃対象」を見つける~データを多面的に捉えるため4W等の切り口で層別する。問題の特定段階で有効なのが「三現主義」=現地・現物・現実。取り組む問題は欲張らず、小枝(小さな問題:自力で解決できる問題で小さな成功を得る)から幹(大きな問題)へと攻めることが効果的である。
【Step3】目標を設定する:達成目標は具体的に数値で示す~あるべき姿と目標は異なる(やること・手段・安易な達成目標は不可)。2~3割増しの少し背伸びをしないといけないような目標を立てる。達成目標は“何を”“いつまでに”“どうする”の3つの要素で数値で示すこと。尚、定性的な目標は「KPI(目標達成のための重要な業績指標)」を用いて定量的に把握する。
【Step4】真因を考え抜く:問題が起きる真因(真の要因)を「なぜなぜ5回」で突き止める~抜本的な解決を図るには「真因」の追求が不可欠。その手法が有名な“なぜを5回繰り返す”こと。真因に迫るため「特性要因図(魚の骨図)」等のツールを利用して推定要因を抽出し、更に三現主義に基づいて事実との検証を行う。
【Step5・6・7】対策を立てて実行する:真因を特定したら解決するための計画を立てて実行する。その際、対策実行の効果を測るのも重要である~
【5】対策計画を立てる:真因をなくす対策案を出し効果的なものに絞り込む~沢山の対策案を出し、①効果、②実現可能性、③コスト・工数、④リスク、⑤自己成長の視点から優先順位を決める。
【6】対策を実施する:対策案を決めたら、チーム一丸となって素早く行動に移す~スピーディーに実施し、進捗チェックで効果・影響も評価する。報連相(報告・連絡・相談)を怠らないこと。
【7】効果を確認する:対策を実行した結果、目標を達成できたかチェックする~実行は定期限区切りで目標に対する評価を確認(OK⇒Step8へ、NO⇒Step4戻り)。結果だけでなく「プロセス」を振り返ることが肝要(トヨタでは、必然的かつ継続的に結果が出せることによってはじめて評価される)。
【Step8】成果を定着させる:誰がやっても同じ成果を出せるように成功のプロセスを「標準化」する~成功のプロセスは一過性で終らせることなく「標準化」し、仕組みとして「管理の定着」を図る(トヨタでは“歯止め”と呼ぶ)。更に、成果が関係部署に「横展」拡大して、問題解決プロセスが再現されて初めて100点満点となる(プロセスの共有が人やチームを育てる)。